私自身は2002年からアセアン諸国の政府機関主催のセミナーで消費財に関する日本市場の特性や日本人ビジネスマンとの交渉のしかたをアドバイスしています。アジア諸国の経済成長とともに日本市場への売り込みは熾烈な競争となっています。統計数値からいえば日本は非常に大きな市場だからです。
日本市場の大きな特徴は四季の変化を生活に取り入れる文化があり、衣食住に季節性があります。季節の変化が消費を促し、小売店の店頭も商品の入れ替えをするため納期が重要な問題となります。また、二極分化したと言いつつも、1人の消費者が 100円ショップへも行けば、高級ブランドも買うといった個々人の価値観やこだわりによる選択的な消費をするため、少量多品種の品揃えが必要となります。また、どんなルートで流通させるかも大切な課題です。
ところが、通関統計の数字だけ見て、「このうちのたった1%のシェアを取れば良いのだからややこしいことは言わず売り先をどこか探してくれないか」というご依頼が結構あります。特に最近増えたのはアジア企業の日本の駐在員から販売活動をかわりにやってほしいというご依頼です。おそらく立ちはだかる言語、文化、産業構造の壁にお手上げ状態なのでしょう。
11月のベトナム講演のために日本の輸入統計の推移を見ていました。普及品の木製家具といえば伝統的にアセアン諸国の代表的な産品です。2000年に中国からの輸入は ASEAN諸国全体の約半分くらいの金額でした。ところが2004年には中国は ASEAN諸国全体の 1.5倍と急成長します。中国企業が成長した事ももちろんありますが、日本の生産拠点の中国シフトが進んだからです。日本の資金のみならず、技術やデザイン指導といったものも広義の投資と見做せば投資先の国からの輸入がふえるという訳です。 ASEAN諸国の中で唯一ベトナムだけが伸びていますが、これも伸び盛りの国であるという事に加え、チャイナリスク回避からのベトナム進出という世界的な動きも原因のひとつです。
これは他の産業にも言えることですが、韓国、台湾、香港の企業も一気に中国進出が進んだ時期があります。たとえば日本企業が韓国企業と取引したり、そこへ投資をしていたとします。この韓国企業が中国へ生産拠点を移せば、日本企業はその商品を韓国ではなく、中国から輸入することになり、また中国の工場へ間接投資していることになります。商品は同じであっても国別の輸入統計上は韓国の数字が減り、中国が増えることになります。
バッグ類が良い例で、日本の輸入金額の約半分が中国です。 4割が高級ブランドを送り出す欧州です。普及品の中国製と欧州ブランドの中間に位置する国産のバッグというのは衰退の一途をたどっています。 ASEAN諸国からの輸入は2000年と2001年をピークに下降の一途をたどっています。アジア雑貨ブームが一段落し、 ASEANの良さを生かしながらも日本人の現代生活にマッチした「ものづくり」が進んでいないからでしょう。また、バッグというのは流行に左右されますし、デザインのみでなく機能性も重要な商品です。機能性素材や多種にわたる部品などの調達が中国レベルの工業国になっていないとなかなか難しいのも原因のひとつです。
各国から見れば「対日の輸出高が減った、増えた」というだけですが、統計数字の裏には実にいろいろな事情が潜んでおり、いかに読み解くかが大切だと思います。
河口容子
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「天天向上」これは中国の学校などでよく言われる言葉で「日々向上する」という意味だと中国ビジネスをしている知人に教えてもらいました。経済発展においても中国はまさにこの言葉通りのような気がします。2004年 6月18日号「教育ビジネス市場としての中国」というテーマでも取りあげさせていただきましたが、中国は人口が多いために歴史的に就職難、またかつての日本企業のように入社すれば会社が手取り足取り教えてくれ、ステップアップするための研修をしてくれ、勤続年数に応じて昇格、昇給までしてくれるような風土にはありません。自分の実力で良い労働条件を勝ち取るのです。
中国ではすでに求人と求職のミスマッチが起きていると聞きます。ミスマッチが起きるということは高度な専門技能を要する人がさまざまな分野で必要になること、また第二次、第三次産業の発達を意味すると思うのですが、中国はすでにその域に達しています。都市へ出稼ぎに行って非熟練工としてこき使われるよりは農村に残って農業をするほうがまし、という人や、都市部ではブルーカラーよりはホワイトカラーへ、それもスキルアップして高い報酬、地位をめざす人がふえています。
上海で調査・コンサルタント会社を経営する知人によれば、英語ができる中国人は 3人に 1人しか就職ができず、逆に日本語ができれば 1人に3 社から求人があるというので、日本語を学習する人がふえているそうです。日本の簿記学校が中国にスクールを作るという話も小耳にはさみましたので、日本語で簿記もできる中国人がどんどんふえていくことになります。
9月にベトナムへ出張しましたが、ベトナムは日本語話者数世界一(もちろん日本を除きますが)をめざしているだけあって、外交官、政府機関の方はもとより、企業関係者の日本語の話せる人の多さは信じられないほどです。アジア諸国で日本語の話せる人がふえている間に日本ではどのくらい英語やその他のアジアの言語が話せるようになったのか考えるといつも恥ずかしさでいっぱいになります。
私の会社には、アジアの国ぐにから、技術者を始めとする専門家を紹介してほしいという案件が各国の政府機関や企業からまいこみますが、先方の希望する技能や経験にぴったりな人材が見つかってもたいていは「英語ができない」という点で推薦できなくなってしまいます。数年前なら中国で日本人専門家を迎えるにあたり日本語通訳をつけてくれたりしましたが、今は「英語環境になっていますので英語でいいですよ。」と先方から言われ、困るというか嫌味にさえ聞こえることもしばしばです。特に中国の大企業は国際ビジネスが急速に成長しており、また国際基準というのは西欧が一歩先んじているため、英語でビジネスができる体制をしっかり作りつつあります。
一方、先日日本のある政府機関から日本の中小企業の社員教育に何が必要か、特に国際化に対応するにはどうしたら良いか、というような質問を受けましたが、質問自体が時代遅れのような気がしました。私の見聞きする限り、日本の中小企業は業績が二極分化しており、勝ち組においても不要な社員は切り捨て、有能な社員に取り替える時代です。会社が社員を教育していては間にあいません。また、国際化にはまず専門分野の仕事が英語でできることです。何ケ国語も話せるのに仕事がなくてぼやいていた女性がいましたが、理由は簡単で彼女の場合は専門分野も実務経験もなかったからです。日本もそういう時代に入っています。有名校を卒業し有名企業に入れば一生安泰な時代は去りました。個々人が自分の才能をどのように生かし、伸ばしていくかを考え努力し続けなければならないという事は大変でもありますが、職業観や幸福感という点では多様性への理解が生まれるのではないかと期待しています。
河口容子
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