香港向けの輸出が一段落、ライセンス・ビジネスもライセンサーの返答待ちという事で久しぶりに東京都中小企業振興公社が主催するハノイ投資セミナーに行ってみました。ハノイ特別市への投資関連は東京都がタイアップしてサポートする体制になっているのです。主催者名からして中小企業からの参加がほとんどでしょうが、雨にもかかわらず満席に近い出席者にハノイ市計画投資局のファン・バン・クォン副局長が感動しておられました。
ハノイ市は2008年10月23日号「危機を克服するベトナムと新しいハノイ」でふれたように昨年8月に周辺のハテイ省などと合併し、世界の首都としては17位の大きさになりました。ハノイはもうすぐ遷都1000年を迎えるだけあって4088の歴史遺跡と10の博物館をかかえるアジアの観光都市第 2位、世界ランキングでも13位で、昨年は 130万人が海外から観光に訪れています。その割にはホテル数が少なく、ハイシーズンには私のお気に入りのブティック・ホテルは 1泊約 2万円になってしまいます。現地の物価と比べると異常な気がします。
インフラ整備も各国の ODAなどで着々と進み、昨年の合併によりハノイ市内にハイテク工業団地 1ケ所、工業団地が28ケ所になりました。 JETROの調査による労働者の賃金を比較すると、北京とクアラルンプールがほぼ同じ、一段下がってマニラとバンコク、深セン、ニューデリー、ジャカルタがほぼ同じでベトナムは月 1万円前後とかなり優位性があります。ただし、近代化とともに賃金上昇は避けられないので、識字率の高さ、理科系のIQの高い国民性、手先の器用さ、対日感情が悪くない、中国や他のアセアン諸国双方に近いという地理的条件をあわせて進出戦略を立てる必要があろうかと思います。
私自身は全国レベルでの一人あた りGDPが1000ドルを超えたこと、若者の比率が高い国家で現在8600万人の人口がすぐ 1億人になるであろうことを予測すると非常にポテンシャルの高い市場と言えます。私の取引先は日本製の著名ブランドのベビー用品をコンテナ単位で輸出を始めています。
もうひとつは外務省の統計で重要なパートナー国として一番に日本をあげたのはアセアン諸国では現在も今後もベトナムとインドネシアだけです。フィリピンは現在は米国、次に日本の順ですが、今後については米国が大幅に減ったため日本がトップになりました。タイはますます中国依存が強くなる傾向にあります。
会場で先日私の講演に参加してくれたベトナム人男性と会いました。彼はハノイ市の出身だそうで有名大学が集中するハノイですので「大学はどちらへ行かれましたか?」と聞くと「東京農業大学です。」と答えられ思わず笑ってしまいました。日本語をマスターするまでは英語で授業を受けていたそうです。新婚さんで奥さんは留学仲間、夫婦そろって日本企業で働いています。ちなみにアジアでの女性の社会進出率はベトナムがだんとつトップで男性 100人に対し女性94人。女性の企業経営者は珍しくありませんが、政府機関は女性の管理職が少ない気がします。軍~共産党~政府という伝統的に男性優位の特権階級に優秀な男性が集中するからかも知れません。
河口容子
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中国ミッションは一段落と思いきや、暑いさかりに上海市から投資ミッションがやって来ました。もっとも、今年の上海は37度の猛暑、仕事と勉強をかねて今春から上海に住み始めた知人のお嬢さんもいきなり反日デモの洗礼を受けたあと今度は猛暑に悩まされているようです。
さて、会場は川崎、最近はこうした催しも地方公共団体や地方都市の商工会の主催も多く、地図を片手に会場探しをしながらたどりつく事がふえました。猛暑の上海から来日したミッション・メンバーは全員スーツにネクタイ姿、一方日本人側は「クールビズ」の影響か、ほとんどノーネクタイに半袖シャツの姿が目立ち、司会者があわてて言い訳やらお詫びをする始末でした。
内容は上海近郊の工業団地ふたつの紹介がメインでしたが、この「開発区」と呼ばれる地域も中国全土に6,060あったのが、昨年見直されて 7割削減されたというのですから、中国は広いと言えばそれまでですが、乱開発といっても過言でなく、一口に開発区といっても国家レベルから地方行政レベルといろいろあるわけです。進出する企業はどこが自社にとってメリットがあるのかを見極めるだけでも大変な仕事といえましょう。どこの開発区でも世界の一流企業が「広告塔」になるらしく、一時期日本でもブレイクしたアウトレット・モールのブランド企業誘致合戦を思いおこさせます。
この投資セミナーで私が興味深かったのは日本の損害保険会社による講演でした。通常のセミナーでは長所ばかり現地の方がアピールされるのですが、このようにリスクを指摘して必要なら保険をかけてください、という視点はきわめてリアルで新しい傾向ともいえます。昨年末で中国に進出している日本企業は約22,000社、沿海部特に上海を中心とした華東に集中しており、約 8割が現地法人です。沿海部では独資が多く、内陸部は合弁会社方式が多いようです。また、製造業のほうが非製造業を上回っています。中国ビジネスにおいてトラブルの原因となるのは日本の国土の26倍だけに交通インフラの悪さと自然災害、物流業者のサービス・質の問題、コネの世界、信じられないヒューマン・エラー(現地社員のトレーニングや知識不足により思わぬ事故をまねく)、ストライキ、交通事故や治安問題などです。これに加え、商習慣の違いによるもの、たとえば、売掛金が回収できない、という事もよく聞く話です。
工場で出す食事の味付けが良くないということで一部の労働者がストライキを起した例もあるそうです。また、はずみで現地労働者をなぐってしまった、そうすると地元民も含め 100人以上出て集まって騒乱となり、これを治めてもらうのに多額のお金を行政に払ったケースもあったとか。日本人は海外で人を使うのがとても下手です。気を遣い過ぎて甘やかしてしまうか、逆に厳しすぎて反感を買うケースのどちらかになりがちです。特に日本人は中国人に対しては顔が似ている、漢字を使う、歴史的にもつながりが深いという事で同質と勘違いしてしまう傾向がありますが、異文化のもとで仕事をしているという認識と明確な態度やコミュニケーションが意識的に必要だと思います。日本語のあいまいな表現やホンネとタテマエの違いは日本人どうしでも誤解のもとになることが多いからです。
河口容子