[149]上海市投資セミナーにて

 中国ミッションは一段落と思いきや、暑いさかりに上海市から投資ミッションがやって来ました。もっとも、今年の上海は37度の猛暑、仕事と勉強をかねて今春から上海に住み始めた知人のお嬢さんもいきなり反日デモの洗礼を受けたあと今度は猛暑に悩まされているようです。
 さて、会場は川崎、最近はこうした催しも地方公共団体や地方都市の商工会の主催も多く、地図を片手に会場探しをしながらたどりつく事がふえました。猛暑の上海から来日したミッション・メンバーは全員スーツにネクタイ姿、一方日本人側は「クールビズ」の影響か、ほとんどノーネクタイに半袖シャツの姿が目立ち、司会者があわてて言い訳やらお詫びをする始末でした。
 内容は上海近郊の工業団地ふたつの紹介がメインでしたが、この「開発区」と呼ばれる地域も中国全土に6,060あったのが、昨年見直されて 7割削減されたというのですから、中国は広いと言えばそれまでですが、乱開発といっても過言でなく、一口に開発区といっても国家レベルから地方行政レベルといろいろあるわけです。進出する企業はどこが自社にとってメリットがあるのかを見極めるだけでも大変な仕事といえましょう。どこの開発区でも世界の一流企業が「広告塔」になるらしく、一時期日本でもブレイクしたアウトレット・モールのブランド企業誘致合戦を思いおこさせます。
 この投資セミナーで私が興味深かったのは日本の損害保険会社による講演でした。通常のセミナーでは長所ばかり現地の方がアピールされるのですが、このようにリスクを指摘して必要なら保険をかけてください、という視点はきわめてリアルで新しい傾向ともいえます。昨年末で中国に進出している日本企業は約22,000社、沿海部特に上海を中心とした華東に集中しており、約 8割が現地法人です。沿海部では独資が多く、内陸部は合弁会社方式が多いようです。また、製造業のほうが非製造業を上回っています。中国ビジネスにおいてトラブルの原因となるのは日本の国土の26倍だけに交通インフラの悪さと自然災害、物流業者のサービス・質の問題、コネの世界、信じられないヒューマン・エラー(現地社員のトレーニングや知識不足により思わぬ事故をまねく)、ストライキ、交通事故や治安問題などです。これに加え、商習慣の違いによるもの、たとえば、売掛金が回収できない、という事もよく聞く話です。
工場で出す食事の味付けが良くないということで一部の労働者がストライキを起した例もあるそうです。また、はずみで現地労働者をなぐってしまった、そうすると地元民も含め 100人以上出て集まって騒乱となり、これを治めてもらうのに多額のお金を行政に払ったケースもあったとか。日本人は海外で人を使うのがとても下手です。気を遣い過ぎて甘やかしてしまうか、逆に厳しすぎて反感を買うケースのどちらかになりがちです。特に日本人は中国人に対しては顔が似ている、漢字を使う、歴史的にもつながりが深いという事で同質と勘違いしてしまう傾向がありますが、異文化のもとで仕事をしているという認識と明確な態度やコミュニケーションが意識的に必要だと思います。日本語のあいまいな表現やホンネとタテマエの違いは日本人どうしでも誤解のもとになることが多いからです。
河口容子