[032]数字で語る

 米国の多国籍企業と取引をしていた時のことです。この会社は全世界に数百の契約工場を持っています。私が「AとBという工場は船積み書類のミスや送付の遅れが多く輸入通関が遅れがちです。」とその担当本部長に報告をしたところ、すかさず返ってきた答えはこうです。「あなたがミスや遅れが多いという基準は何をもって多いと言っているのですか?たとえば、そのミスというのは何件中何件発生しているのですか?その数値はAとB以外の工場の数値と比べてどのくらい多いのですか?それがなければ工場に対してフェアなクレームができません。」
 実は予想したとおりの回答だったのですが、当時その会社関連の輸入は月に約1000件ありましたので、1ヶ月統計を取ればほぼ正しい数値を得られると思い分析してみました。一時が万事で、船積み書類のミスや遅れがある工場は品質クレームも多いという傾向を見出しました。発注がたくさんかかっている工場は当然ミスも発生する件数は多くなり、数量も多いので目立つのは言うまでもありません。ただ、小口の発注しかないのに異様に書類のミスの比率の高い工場もあり、小口であるがために印象が薄かったということもありました。


 この時ふと思い出したのは、日本のある小売業の女性のバイヤーの事です。彼女は商談のとき必ず数字で表現しないと怒ります。「よく売れた」というのは何個なのか、売上金額でいくらなのか。たとえば、大きな企業では1000万円売れても良く売れたとは言わないでしょうし、逆に半年1個も売れなかった商品が毎月5個でも売れ出すと「最近よく売れています」と言う人もいるかも知れません。各人の感覚で売れた、売れないと言われても自分は判断できない、というのが彼女の持論でした。
 日本人どうしなら何となく推察できる部分もありますが、外国人と話をする場合はできるだけ数字を出して具体的に話をつめたほうがお互いに誤解もなく話を進めることができます。数字をどう判断し、次にどういうアクションを取るかはまた別の問題ですが。
 最近気になるのは日本人がよく使う「皆がそう言います。」とか「皆が持っているから。」という表現です。「皆」とはどこの皆様?たったの2-3人が皆様だったりすることもあり、そのまま外国語に直すと大変おかしな事になります。日本語のきわめて情緒的な使い方の一例でしょう。
 SARSに関しては毎日感染者や志望者の数字が不気味に更新され、不安も広がります。感染者数だけではなく、それにより間接的に被害をこうむる人の数や金額もどんどん発表してほしいものです。でなければ、「自分はかからなかったから、ああ良かった。」で終わってしまう人もたくさんいるに違いないと思うからです。
河口容子