[150]交渉力の極意

不定期ですが連載をさせていただいている貿易関連のニューズレターに「交渉力を磨く」というテーマを取り上げたところ、女性の方だけから反応がありました。貿易実務講座や時折私も講演させていただくことがある小口輸入の講座でも非常に女性の方々は熱心に勉強されておられます。貿易実務(理論)や語学の勉強は貿易に携わる者として必携ではありますが、交渉術というところを見落とされている方が多いのではないでしょうか。また、ビジネス・ウーマンにとって交渉相手は圧倒的に男性が多く、接し方に気を遣う部分もあり気になるテーマだから女性だけから反応が出たものと思います。
残念ながら交渉術は座学では学べません。相手が人間、しかも国際ビジネスの場合は文化や商習慣の異なる世界の人間、しかも言語の壁もあるからです。最近はインターネットや通信販売の発達したせいか、「交渉」をすることを知らないビジネスマンもいます。また「自分の都合だけ一方的にまくしたて要求をのんでもらう」ことを交渉と勘違いしている人もいます。私自身はビジネスをバランスだと考えています。一方が不当に利益を得たり、損をするビジネスは決して長続きしません。逆にいかにバランスのいいビジネスであるかを説得できれば交渉は成功します。金銭的なものでなくても、広告効果、名誉などビジネスを始めることによる波及効果も考え、ちょうど将棋や碁をさす時に何手も先を読むように交渉もあらかじめいろいろな展開を考えておくことが大切です。
絶体絶命と思える中を切り抜けた上司がいました。英語は商社マンとしては決して上手ではありませんがその謙虚さ、誠実さが勝因であったと思います。また、もうひとりの上手は法務、税務、貿易実務など実に多角的な視点から淡々と対応したため難しい交渉に成功しました。交渉ごとには難易度があると思いますが、簡単なレベルでは知識や経験がものを言いますが、次の段階では知恵、最も難しいレベルでは人間力の勝負といえるでしょう。では、簡単な問題に人間力だけで立ち向かえるかというとそうではないところが交渉の奥深さだと思います。
人間力と高めるのは難しいことですが、外国人との交渉において比較的目安にしやすいものがあります。外国人から見て良き日本人であることです。礼儀正しい、勤勉、誠実、他人に対して配慮するというような人であれば私の知る限り、多少語学力が劣ろうが、頭の回転が早くなくても評価はされている気がします。同じようにビジネス・ウーマンについても女性ならではのきめ細かさや粘り強さ、ちょっとした気配り、相手への忠誠心が評価されます。豪放磊落さだけでビジネス・ウーマンが評価されるケースはまずありません。ですから、時間にルーズなお国柄のところに行っても私はきちんと約束の時間を守りますし、国内外を問わずミーティングのお礼メールなどはタイムリーに出すように心がけています。また、顧客に対して参考になると思った情報はどんどん送るようにしています。交渉の結果を左右するのは、「術」ではなくこうした日々の積み重ねとも言えます。
河口容子