大人の社交場、パリのレストランやディナーショーのある場所ではドレスコード、つまり服装規定が設けられているのは大体のガイドブックに掲載されているから知られている事。しかし、残念ながらこれをきちんと認識せず無視する観光客がいるのはとても悲しい。それは日本人観光客だけでなく、欧米人でもそうだけど、やはり大人の社会ではプロトコールを守ってもらいたい。特に店側のきちんとした対応を望むのであれば、こちら側も店に敬意を払う身支度で行くべきではないだろうか。
先日観光アテンドの仕事でリドに行った。顧客の女性と私は偶然にも共に母の形見の着物を洋服にリフォームした装いで。クローク担当の女性がまず「お二人ともとても綺麗なお召し物で」と笑顔がほころび、私達の敬意を喜んでくれた。帰り際も丁寧な挨拶を受けた。ほんのちょっとの心遣いが私達にとって嬉しいように、相手も同じマナーで返して来る。
米国で学生だった頃、基本的なビジネスマナーを学びその中で服装について教わったことがあります。自分らしく見せるための装いとは、会議等で存在感を与える装いとはなどなど。どんなに中身が良くても身支度がきちんと出来ないで軽視されるのは半ば自己責任と。
とある日本のムッシュと装いについて会話した時、服飾関係の仕事をしている彼はすんなりと「きちんとした服装は相手への思いやり」と。会社の重要なポストにいて社交場への出席が多いこの日本のマダムはこれについて「相手への敬意、それなりの対応を望むなら当然のこと」とこれまたすんなり。この言葉の重み、分かるでしょうか。
観光の仕事をしていると良く聞く文句が「日本人だから馬鹿にされた」とか「アジア人だから隅っこの席しか用意してくれなかった」などなど。確かにそれは嘘ではないと思いますが、でも、全部が全部、現地側の意地悪とは言い切れないはず。
チップひとつにしてもそう、その習慣が無いことを良いことに全く置かなかったり、また他の人だって軽装じゃないと他人ばかり避難して、自分の場違いの格好を省みもしない。常にこのドレスコードを意識してお店に入ればそうそう意地悪をされることもないはず。
昔読んだピエール・カルダンが書いたコラムで、彼は出張の時は他の荷物を減らしてもダークスーツと皮靴は必ず持参する、どこでどのような席に招かれても困らないようにと。さすがエレガンスを商売にする人の言葉だけあると感心したものです。
夢路とみこ