東京で外人ハウスに住んでた頃のある日、隣のスイス人が困った顔をして声を掛けてきた。勤務先の大学を3ヶ月休んで研究している日本の古典芸能を堪能しに来たけど歌舞伎以外は英語イヤフォーンがないから困ってる。もう1ヶ月にも経ったのに能も狂言も見に行ってない、助けてくれと。
可哀想だから能、狂言に付き合ってあげたら、今度は「回転寿司」に行きたいという。私の分だけで5000円以上も払わせたのは非業と思いきも、残りの2ヶ月は銭湯でオヤジと背中の流しっこ、立ち食い蕎麦、新橋のガード下でコップ酒を堪能し、帰国の日の朝、目を潤ませて「とみこのお陰で期待していた以上の体験が出来た。会えて良かった」と言った。その後も私は外国人向け「にわか都内観光局員」にさせられてしまった。
そう、旅行者がお決まりの観光地見学の次に味わいたいのはにわか現地人生活、ジモティ暮らし。外国語に多少の自信があってもそこは未知の土地、知り合いもいないから諦めるしかない。
私の周囲で日本語を勉強するフランス人はそう多くないけれど、皆頑張ってる。物価の差から日本人が渡仏する程にはフランス人は来日出来ない。漫画や留学生との会話では上達に限界がある。もっと話したい、もっと知りたい、と彼らの望みはどんどん膨らんで行くのにその方法がない。
[168]頑張れインターン!
留学と違った体験をするインターンは参加費を払えば誰でも希望の場所へ派遣されるという事はありません。無給の研修なのに受け入れ先企業が「この人なら引き受けます」と言わない限り不可能。審査が通るまでに語学や適正のチェックがありやっぱり壁は厚い。どんなに語学が出来てもその国で頑張ってみたいと意思があっても審査の合否を大きく左右するのが「就労経験」。だから派遣されてくる研修生は社会人として一応のマナーとセミプロ意識を持ってやって来ます。でもそれが出来ないと研修とは言えども無給の1年は辛い。
フランスの労働許可証の取得がいかに難しいかは身をもって体験した。実力があればなんとかなるというのは高失業率のこの国では御伽噺。外国人は外国人。守らなければならないのは自国民の就職先。語学留学から就職というラッキーな話はなかなか無く、辛うじてインターン研修の後に就職という可能性が僅かにあるかないか。それでも研修生は僅かな望みを持ち、自らの貯金を頼りにスポンジの様に吸収し、経験を積む。研修の終わりには一回り大きな人となって更なるキャリアに向かってのステップを踏む。