[17]LE8T

2017年1月1日

若い読者もおられることなので、自分の稚拙な知識をひけらかし、オーディオの基本を交え、述べていくことにしたいと思う。ベテランマニアの諸兄はどうか目をつぶりながら読み飛ばしてもらいたい。

ご存知のように、人間の耳で聞くことができるのはの20Hzから20000Hzの間の空気の振動である。これ以上あるいはこれ以下は人間の耳では聞くことができない。しかし体感はできる。例えば地震。これはぐらぐらと地面が揺れるがたぶん空気も揺れている。風の揺らぎ。これも音にはなっていない空気の振動であるが、体感はできる。

で、スピーカーの話である。スピーカーは電気信号を実際の耳で見けるように空気を振動させるのが仕事。ちなみにスピーカーは正しくはラウドスピーカーといい、大きな声でうるさくしゃべるという意味が本当のところであります。

スピーカーは口径が大きいほど低音が出る。しかし口径が大きくなるほど高音は出にくくなる。逆に高音を出やすくすると低音は辛い。したがって、低音と高音をそれぞれを得意とするスピーカーが受け持ち分担することになる。これがマルチウェイスピーカーと呼ばれるものだ。今出回っているスピーカーはほとんどこれ。そんなことを気にする人も少ないと思いますけどね。

マルチウェイにするには、スピーカーに行く信号を前もってそのスピーカーにあった周波数に分けてあげる必要がある。低音用に作られたスピーカーに高音の信号を送っても再生できないからだ。この分ける仕事を受け持つのがネットワークだ。ネットワークはコイルとコンデンサーで出来ている。コイルは高音をカットし、コンデンサーは低音をカットする。ちなみにスピーカーの音質を左右するのはじつはこのネットワークである。よく出来たネットワークはスピーカーのユニットより高いこともある。スピーカーの良さを生かすも殺すもこのネットワーク次第ということ。

ところで、世の中にはフルレンジというスピーカーがある。これは一つのスピーカーで低音から高音までカバーする、スーパーマンみたいなスピーカーだ。

フルレンジのいいところは、音質悪化の元凶であるネットワークがいらないということ。また、マルチウェイのスピーカーはその特性を生かすため高音用と低音用のスピーカーの音色がマッチしていないこともあるがフルレンジはそういう心配は無い。さらに、低音用と高音用のスピーカーは同軸型もあるが大体離れてセットされている。だから、ボーカルの声が上にいったり下にいったり揺らぐこともある。その点フルレンジは音像がカチッと決まる。

欠点はどっちつかずと言うことだ。いってみれば中途半端。低音は不足し高音は伸びていないというのが普通。大きな音も苦手だ。しかしバランスのよさで根強い人気があるのがフルレンジなのである。

JBLには1962年の開発されたLE8Tという名機がある。LEとはリニア・エフィシェンシーの略で、JBL初のブックシェルフ型スピーカーのために開発された20センチのフルレンジユニットだ。白いコーン紙にアルミのセンターキャップが印象的。

このJBLのLE8Tユニットを使い、サンスイが発売したのがSP-LE8Tである。SPで始まることからわかるように、これはサンスイのスピーカーであるから国産のスピーカーということになる。

私がはじめてこのLE8Tに出会ったのは、東京新宿にあるサンスイのショールームである。当時サンスイはJBLの代理店だったので、JBLのスピーカーもたくさん置いてあった。そのなかでサンスイのスピーカーデザインなのに妙に生々しい音を出すスピーカーがあった。たしかビルエバンスのピアノが流れていたと思ったが、まさにビルエバンスがそこに居るかのようだった。しかし、現実に居るわけ無いし。

音を出していたのはSP-LE8Tであった。小さい体から溢れるばかりの音楽性を表現していた。すぐにほしくなった。価格はいくらだったか思い出せないが、たしか2本セットで12万円くらいだったと思う。同じくらいのサンスイのスピーカーで3ウェイのしっかりしたスピーカーが一本3万円くらいで買えた。LE8Tはいいスピーカーだったが、定格入力は少ないし、大きな音でガンガン慣らすスピーカーではない。よさは認めつつも買うまでには至らなかった。私も若かったな。

ちなみに今でもLE8Tは中古で手に入れることができる。しかし、なにぶん年代物なのでへたっていて往年の音は望めないかもしれない。しかし、これでビルエバンスやエラフィッツジェラルドを聞いてみるといい。きっと目からウロコだから。ただしアンプは選ぶぞ。

2000-09-11