[128]介護レベルの低下

2018年8月25日

あとこのメルマガも残り少なくなってきた。まだまだ言いたい事は多いが今回は前回の続きでなぜ介護のレベルが低下するのかを説明したい。
何度も言うが、これだけ福祉が社会の中で大きな位置づけを得ているにも関わらず、介護のレベルは上がるどころか下がっている。ヘルパー2級講座でも最低限の実習と学習はしているはずだし、法人や会社でも教育研修は前に比べるとはるかに充実してきた。なぜだろうか?
*競争はレベルを上げない
資本主義の論理でよく「競争すればサービスの質が良くなり、価格が下がる」と言われている。介護保険の導入時にもこの論理でサービスの質が良くなると言う有識者が多かったが、所詮は現場の事を全く分かっていない机上の空論だ。競争の意味が福祉においては全く違うからだ。福祉には競争がある分野とない分野がある。競争があるのがデイサービスやホームヘルパー、有料老人ホームなど。一方特養や老健、グループホームなど入所系施設は需要が多く競争などあり得ない。だから競争があるデイサービスやホームヘルパーなどは他社と切磋琢磨してレベルを上げているかと言うとそれも違う。実を言うと今の介護保険制度ではどれだけサービスのレベルを向上させても貰える報酬は全く上がらない。その当時のトレンド、例えばユニットケアなどを行うと介護報酬が上乗せされるがそれも微々たる額でしかも数年経てば増額の対象外になる。他のサービス業のように価格にコストを全面的に転嫁できるわけじゃないから、事業者は利益を得るためにどうしても人件費などのコストの削減に励むしかない。そもそも福祉は金がかかるにも関わらず、介護報酬が低すぎるのだ。だからドングリの背比べのような事業者ばかりになってしまう。
*雇用者に介護能力の差は見えない
俺もこのキャリアを続けて10年以上になるが、はっきり言って上司から介護を教わった記憶は少ない。なぜなら技術的になっていない上司が多いからだ。最近は特に酷い。おむつ交換一つまともにできないリーダー、主任は非常に多い。体位交換、着衣着脱介助、移動介助など介護技術はなんとかごまかせても実際の現場介護となると足手まといになる上司が多い。介護知識は研修などで小賢しい知識はあってもその知識をどう現場に生かすのか?という実践ができない。例えば認知症の老人が食事したにも関わらずに「私はまだ食事を貰っていない!!」と訴える時にどう対応するのか?このようなシチュエーションで部下から助けを求められても、殆どの上司は具体的な指導ができない。だからこそ部下から助けを求められても「自分で考えろ」と突き放す上司が多い。本当に判らないから指導ができないとは口が裂けても言えないのだ。
上司がこの様では介護レベルなんて上がるわけがない。他の業界では信じられないだろうが福祉においては介護レベルが無能でも上司が勤まるのだ。どうしてそうなるのか?それは上司に抜擢する側、つまり雇用者である経営者が介護の事をあまり判っていないのが大きい。介護は野球やサッカーみたいに明確な結果が出るわけではないし、パフォーマンスが公開されているわけではない。だからこそ上司に選ぶ基準として「体裁がいい(上司っぽく見える)」「雇用者が気に入っている」など介護と関係のない基準が用いられるわけだ。利用者やその家族だって介護者のマナーなどすぐ判る部分にはクレームを付けるが、介護の内容の優劣については判らない人がほとんどだ。介護には優劣がある。しかし、それは判りにくいのだ。
*雇用者は介護レベルを上げる気などない
雇用者が介護の本質を判っていないのも無能な上司を蔓延らせる原因の一つだが、それ以上にもっと深刻な理由がある。実を言うと、殆どの福祉の経営者は本気で介護レベルを上げる気などない。身も蓋もない言い方をすれば誰が介護しても同じだという認識なのだ。この意見に抵抗を感じる人は多いだろうが、長い介護経験からこう結論せざるを得ない。なぜなら今の福祉制度最大の欠陥はどんないい介護をしても貰える報酬は同じだからだ。これは何千万と言う入居金を取る有料老人ホームでも同じことだ。施設が満床になってしまえばそれ以上収入が増えようがない。だったら有能だが鼻っ柱の強い生意気な人間よりも組織の理念に従う(=会社の言いなりになる)従順な人間の方を上司にしたがる。
一般企業の営業やデイトレーダー、あるいはJリーガーのように稼いでくる事が大事であれば、多少組織に対し批判的でも黙認せざるを得ない。しかし、介護職はいくら能力が良くても売上に反映しない。利用者からいいケアしても「ありがとう」と感謝されても介護報酬が余分に増えるわけじゃない。だからこそ雇用者にしてみれば「介護者なんか非識字者でもない限り誰でもいい」と言うことになる。言っておくがこれは採用する時も同じだ。前にも何度も述べたが、福祉の雇用者が最も嫌がる人材は福祉のベテランだ。なまじ福祉に詳しい人よりも未経験の素人の方が採用されやすい。ベテランよりも新人の方が育てるのに時間がかかりそうだが、そんな心配は無用だ。どの福祉の職場も内心「自分の施設の教育システムで世界一だ」とさえ思いこんでいる。勿論そんなもの救いようのない幻想だが、そんな幻想を破壊する人間こそ福祉の職場が最も恐れるものなのだ。
今週もいかがだっただろうか?たまごや様でのメルマガ発行が来週で最後になる。メルマガの発行については「続けて欲しい」との意見も頂いた。だが、まだ俺自身は迷っているのが現実だ。まだネタはあるが、正直需要があるのかどうか疑問に感じる。面倒でなければ諸君の忌憚ない意見を聞かせて欲しい。
エル・ドマドール
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