[71]差別用語(上)

2018年8月25日

俺がある喫茶店で会話していた時の事だ。喫茶店のマスターをしている男性といろんな福祉の話をしていた。男性はこんな事を言った。
「コムスンは老人とカタワを食い物にしている連中だな」
俺は飲んでいたコーヒーを吐き出しそうになった。カタワというのは身体障害者を暗喩する差別用語だ。このような発言をすると非難される可能性があるのだが、この男性には心配無用だった。なぜならその喫茶店マスターは電動車椅子に乗っている障害者でもあったからだ。
この電動車椅子に乗る男性は「カタワ」というのが差別用語だとは知らなかった。障害者である彼が障害者を暗喩する言葉を平気で使うのは皮肉だが、本人が気にしないのであれば何とも言いようがないのが実情だ。このことをきっかけに一度俺はこのメールマガジンでも差別用語を取り上げるべきだと考えていた。そこで今回は改めて差別用語について語りたいと思う。
差別用語については福祉業界でもその存在はタブー扱いだ。大学や専門学校では正しい福祉の知識について教えるはずだが、どの言葉が差別用語に相当するのかこれまでも教えてこなかったし、これからも教えるつもりはないらしい。その理由を聞くと必ずこんな事を答えてくる。
「差別用語を知らなければ差別用語を使いようが無い」「そんな授業は福祉には相応しくない」
正当なように聞こえる理由だが、その深層心理を分析してみると鼻持ちならない福祉関係者独特のうぬぼれが垣間見える。福祉を志す人間は差別用語に縁が無い清廉潔白な人間なのだろうか?馬鹿馬鹿しい。どの言葉が差別用語か知らなければ差別用語を使っている事に気づきようがないではないか。
「バカチョンカメラで写真を撮ろう」「靴下が片ちんばしかない」「ツンボ桟敷にされて、事情が飲み込めない」「めくら判ばかり押すなよ」・・・・
これらは俺が福祉現場で聞いたことがある台詞だ。読者諸兄の中にもこれらの言葉を使った事がある人もいるだろう。しかし、これらは全部差別語もしくは使用をできるだけ避けるべき言葉に該当するのだ。福祉関係者にしろ、誰にしろ、その気が無くても差別用語を使ってしまっている事はある。学校や教育機関が教えないならこのメールマガジンが代わりにあなた方に真実を教えよう。
早速差別用語について調べてみたが、あまりにも「差別用語もしくは発言を避けるべき単語」が多いことに驚きを隠せない。俺は大学から福祉を学んでいるために差別用語を使ってはならないと教育されてきたが、それでも差別用語だと知らずに使っていた単語もあった。
例えば「いざり」という言葉。前出の障害者の男性にこんな事を聞かれた。「以前リハビリの時に『いざって下さい』とよく言われて腹が立ったことがあるんだよ。あれって差別用語じゃないの?」「いや、いざりは多分差別用語じゃないと思いますよ・・・・」
いざりとは躄と書く。よくリハビリの現場で使用され、「いざって下さい」とは「柔道のエビのように腹ばいになって移動してください」という意味なのだ。もっと正確に言えば肘や膝、尻を使って立つことなく移動することである。麻痺などがある身体障害者にとって立つことなく這って移動できる「いざり」はかなり重要な動作なので、リハビリでは必ず行っている。
しかし、この「いざり」、実を言うと禁忌度がもっとも高い差別用語に該当する。しかし、身体障害者施設や病院では当たり前のように使っているのが現状だ。インターネットなどで検索してみると、リハビリテーション学会の論文でも公然と使われている。最近では「いざり」の代わりに英語でシャッフリングという言葉を使う動きもあるが、あまり定着はしていないようだ。
この他にも差別用語は無数に存在する。タブーに及び腰の偉い人々に代わり俺が次回も差別用語について語ろう。
エル・ドマドール
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