[54]敬老の日

2018年8月25日

この連載も読者諸兄のお陰で一年以上続いている。改めてお礼を申し上げたい。これからも質の高いメールマガジンを執筆していくつもりだ。
9月15日は読者諸兄もご存知のように所謂「敬老の日」だった。個人的なことで申し訳ないが、俺は敬老の日にいいイメージは無い。それどころか「敬老」と言う言葉に痛烈な拒否感を感じてしまう。なぜだか解るだろうか?それは俺が高齢者介護に携わっているからだ。高齢者介護ほど老人の醜い姿や現実を突きつけられるものは無い。俺は施設に来る実習生や新人にこう言うことにしている。
「高齢者に敬意を払うべきだと考えているなら、老人介護なんか来ない方がいい。高齢者に対する敬意を無くすよ」
高齢者を敬うべきだと言うのが日本社会での既成概念だろうが、そう思うなら高齢者介護をしてみればいい。所詮、現実の高齢者の事を何も知らないからそんな事が平気で言えるのだ。老人人口が2割を超える今、老人であること自体に昔ほどの価値はない。成人式での若者の愚かな振る舞いを見て、「成人の日」の意義を見直すべきだと主張するなら、「敬老の日」も見直すべきだ。断っておくが、何も俺は全ての老人を敵視するべきだと主張しているわけではない。老人の中には尊敬に値する人もいれば、値しない人もいる。高齢者に対する社会保障費が若者を搾取している現在、無条件に老人だと言うだけで敬意を払われる時代は終わったと言いたいだけだ。
そもそも近年の老人はお世辞にも「敬老」に値しない人々が目立つ。読者諸兄は文芸春秋社が出版した「暴走老人」(藤原智美著)をご存知だろうか?「暴走老人」という文春らしいショッキングなタイトルだが、その内容は確かに今の時代の変化を感じさせるものだ。病院などで医師や看護師を殴る老人。役所で受付の言葉使いが気に入らない程度で怒鳴りだす老人。この本ではいろんな「暴走老人」が紹介されている。そしてこの本の内容がリアルであることに検証は必要ないだろう。先日福岡では犬を故意にけしかけて噛み付かせ怪我をさせた老人がいた。かつて老人が警察の厄介になるのは無銭飲食や万引き程度だったが今は違う。2006年、姫路市では高齢者の妻が夫を殺害、物取りの犯行と見せかけた。
ニュースをよく聞けば高齢者が絡んだ犯罪事件が多く見つかる。高齢者犯罪は統計によると10年前の3,5倍に膨れ上がっている。高齢者の人口は10年前の倍程度だから高齢者の犯罪が目立つのは偶然ではない。
知恵と分別、そして寛容さが老人であるが故の英知と言われてきたが、そんなもの幻想に過ぎない。福祉業界で直面する老人たちの多くはそんなご立派な人々ではない。待たされると怒鳴りだす、理不尽な要求を断ると悪態をついて罵る。酷いときは職員が反撃できないことを承知で暴力行為に走る老人もいる。
俺の友人の話だ。仮に道岡としておく。道岡は30歳の女性介護職。結婚して4歳の子供を育てながらパートでデイサービスに参加していた。デイサービスの行事で回転寿司に行った時の事だ。道岡は他の引率職員と一緒に参加していたが、あまりの高齢者のマナーの悪さに辟易することになる。滅多に来られない為か大声ではしゃぐ老人たち。老人たちの声が大きく周りの一般客の注目の的になる。老人には難聴の人が多いため、どうしても話し声が大きくなるから仕方ないが周りの一般客に白い目で見られた。老人たちの興奮はもっと酷くなり、5分前に頼んだ赤出汁がまだ来ないと「兄ちゃん!さっき頼んだ赤出汁はまだなの!?」と大きな声で店員に怒鳴った。さすがに道岡はこれは店に迷惑だと判断して老人に注意を促す。
「さっき注文したばかりだからまだ来ないんですよ。もう少し待ちましょうよ」
冷静に注意を促す道岡。しかし老人の反応は思いもよらないものだった。「なんで?私が頼んだ赤出汁が来てないから言ってるだけじゃないの?何が悪いのよ!」老人は大声で反駁し、ますます注目を集める結果になってしまった。道岡はあまりの体裁の悪さにそのまま店を出て利用者を置き去りにして帰りたくなってしまった。
行事終了後、道岡は憤りを次のように語った。「もう恥ずかしいたらありゃしない!!穴があったら入りたいぐらいよ!二度とあの人たちと外食はしたくないわ。仕事だから仕方ないけど、プライベートでは絶対にごめんよ。私の4歳の娘よりも行儀が悪くて情けない!」
以上の俺の主張を聞くと、反射的にエイジズム(老人差別)ではないかと決め付ける人が一般社会や福祉業界には多い。でも、現実を見るがいい。65歳以上の高齢者が人口の2割に達すると言うのは、これまでの人類史上体験がないのだ。働ける生産人口が7割、専業主婦など除けば直接的にGDPに寄与しているのはせいぜい人口の5割だろう。つまり働ける人間にはこれから働けない(働かない)人々を何らかの形で支え続けなければならない。しかもその負担はこれから重くなる一方なのだ。不良老人たちに厳しい目が注がれるのは止むを得ない。実を言うとその兆候はすでに見えている。国民年金の納付率は若者に限ればすでに5割を切っている。怒れる若者たちの反乱はもう始まっているのだ。繰り返すが老人であるだけで無条件に尊敬される時代はもう終わった。むしろ関係は平等になり、老人はその言動で「敬意」を払われるか否か審判されるのだ。
エル・ドマドール

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