[02]福祉が利用者を見捨てる時

2018年8月25日

さて前回初めて「本当の社会福祉」を知らせるためにメールマガジンを発行したが、いかがだっただろうか?中には少し抵抗を感じたり、ショックを感じた人も少なくないだろう。だが、よきにしろわりきにしろこのような方針でマガジンを発行していく所存だ。
*ジンベイザメ
少し福祉とは関係ない話をすることにする。先日あるテレビでジンベイザメという世界でももっとも大きい魚類を海に放流するドキュメンタリーを拝見した。あなた方の中にも同じ番組を見たことがある人もいるだろう。ジンベイザメは成長すると体長が20メートル以上になるという。もうそこの某水族館の水槽では存分に飼えないから海に還そうと言うのだ。その過程で「水族館のスタッフが何とか無事にジンベイザメを海に還そうといろんなトラブルを体験し、苦労して海に運ぼうとする様子がテレビ局の演出つきで放映されていた。なるほど「生き物を大事にしている」感動を視聴者が感じてお涙頂戴するわけだ。
だが俺はこの番組を見て反吐が出そうになった。大きくなったジンベイザメをふるさとの海に還す。それは一見確かに感動もののヒューマンストーリーに見える。だがその本質を考えれば偽善もいいところだ。
予想よりも成長したため存分に飼えないから海に放流するというのは面倒見切れないからといって犬やイグアナ、ワニ、カミツキガメを無責任に捨てる飼い主とどこが違うのか?ましてや海に放流されたジンベイザメのこれからの運命は悲惨極まりないものになるだろう。いったい今まで黙っていても餌にありつけた環境からどうやって大自然に適合するのか?
よく考えればわかることだが、水族館では人間が勝手にオキアミやプランクトンをプレゼントしてくれるが海では食べられる側も簡単には捕まらない。大自然では誰もが生きるのに必死なのだ。元々ジンベイザメは人間側の勝手な理屈で捕獲され飼育されていたのだ。それならそれで最期まで責任を持って飼育するべきだろう。よく動物保護団体が文句を言わないものだと思う。
*利用者を放り出す福祉
少し関係ない話をしたようだが、実際の福祉でもこれと同じ事が起きていることはご存知だろうか?もちろんジンベイザメと同じように巧妙巧みに大義名分と立てて福祉対象者と縁を切ろうとしているのだ。
「脱施設化」「地域で生活する」「在宅で生活する」・・・・これらの言葉は福祉関係者なら聞いたことがあるはずだ。あまり詳しくない人のために説明すると、脱施設化とはその名の通り施設に入所していた人が施設を出て地域社会で生活をしようという考え方だと思えばいい。だが、断言しよう。これらは国や社会が福祉を必要とする人を切り捨てようとしている証なのだ。
脱施設化や地域化は「施設に軟禁されている障害者達を自由にする」と信じられていた。障害者の側も喜ぶ人も多かった。だが、お金を出す側為政者側つまり支配者側の立場からするとどうだろうか?今まで何故施設に拘束していたのか?どうして今になって止める気になったのか?
前回、社会福祉政策の目的は貧民(=要介護者)の救済ではなく、社会の安定化のためであると述べた。為政者は社会から税金を集め、その税金で対象者を保護してきた。税金で施設の建設を援助し、税金で要介護者や障害者を施設に収容してきたのだ。家族や社会が面倒を見切れない、もしくは面倒を見たくない人々を施設に隔離している・・・・というと、あまりの表現の悪さに眉を顰める人が多いが事実はその通りなのだ。その過程やプロセスには問題があったが、社会的弱者である彼らに衣食住と安全を保障できたのは事実だった。
しかし、ここ最近になって社会の情勢が変わってきたのだ。社会の格差が拡大する方向に傾き、このような保護政策を許容しなくなってきた。大きな政府よりも小さな政府を求められる今の世界の流れでは福祉は「税金の無駄遣い」と言われるようになってきた。どこの国でもどの時代でもそうだが、福祉政策を「無駄な施し」と嫌う人々がいる。「俺が頑張って稼いでいるのに、その収めた税金があのヒモ連中(福祉対象者)に使われるのは我慢ならない!」「生活保護をもらっているのに、パチンコ行くなんて許せない!ちゃんと働け」「あんなろくでなし(福祉対象者)をみていると税金払うのが馬鹿馬鹿しくなる」
福祉政策は別に政府が善意でお金を与えているわけではない。あくまでも社会の不安定化を招かないためにドロップアウトたちを保護しているだけなのだが、真面目に税金を払っている人々にとっては彼らの存在は確かに我慢できるものではない。
しかも日本をはじめとして政府が財政面の悪化により各国政府は福祉を支えきれなくなっているのだ。日本も1000兆円を越える借金に苦しんでいる。財政を改善したいなら公務員のリストラや天下りの禁止などいくらでも打つ手があるはずだが、こういう時は「弱い立場」の人間が犠牲になるのは歴史の常。だから福祉予算はこれからも削減される。介護保険法はそのために立法されたのだ。
福祉予算を削減すると言うと反発があるし、なんせ聞こえが悪い。そこで脱施設化や「在宅介護」という言葉が用いられるのである。これなら反発を招きにくい。事実その通りになった。まさにジンベイザメと同じ構図なのである。国や社会は自分たちのために要保護者を保護していたが、もはや財政的に限界がきて要介護者を見捨てようとしているのだ。信じがたいし、信じたくないだろうがこの傾向はこれからも変わらない。
次は脱施設化が招いた悲劇を紹介しよう。
エル・ドマドール