[61]チャイルド・セイフティー(2)

2018年8月25日

前号では「知らない人に付いて行ってはいけません」の弊害について語った。今回はその他の子供を守る方法についてさらに追求しよう。
最近「安全のために・・・」と称して携帯電話を子供に与える親が多い。一昔ならば子供に携帯電話を与えるのは身分不相応だといわれたものだが現在は違う。「防犯のため」「周りが持っている」などの理由で小学六年生でなんと38パーセントの子供が所持しているとの事だ。教育現場でも携帯に困っていて中には携帯電話持込禁止を打ち出す学校もあるが、親たちの抵抗に遭いなかなか完全禁止は難しい様子だ。
ここで問題だが、携帯電話は防犯に役立つのだろうか?
答えは否だ。携帯電話は防犯に何の貢献もしていない。携帯電話で犯罪や災害を未然に防いだ例はこれだけ携帯が普及していてもあまり聞かない。それどころか携帯は犯罪のきっかけになる学校裏サイトや出会い系サイトなど危険な誘惑が満載だ。そして携帯電話で話しながら、またはメールを打ちながら歩いたりするのもかなり危険だ。周囲に注意が届かず、誘拐、拉致、引ったくりに遭いやすい。携帯電話、音楽プレイヤーなどの弊害は周囲に対する観察力や注意力を殺ぎ落としてしまう。
そしてもし子供が誘拐や拉致に遭った際、子供が携帯電話を持っているとかなり都合がいい。アドレス帳、メール、着信履歴、発信履歴から家族や関係者などの個人情報や交際範囲、児童本人の人間関係や習い事やスケジュールまで知られてしまうのだ。人質を取られた家族に電話をかけるときも本人の携帯電話でかければ逆探知をして犯人のアイデンティティを割り出す事もできない。こう言うとGPS機能で子供の居場所がわかるのでは?と反論する人がいるだろう。だが、バッテリーを外してしまえばそんなもの何の役に立たない。後でゆっくり電波の届かない所に行き、データを抜いてしまうこともできるのだ。
防犯カメラはどうか?最近やたら市井で防犯カメラの姿が目立つ。一時期、グーグルの監視カメラで地球上どこでも見られるサービスが議論の的になったことがある。しかし、この防犯カメラは防犯については全く役に立たない。こんな事を言うと驚くだろうが、本当のことだ。防犯カメラに写った画像で犯人逮捕の証拠になることはある。しかし、あのカメラに犯罪を止める力は無い。防犯カメラに録画しても、その写っている画像がどのような意味を持つのかはコンピュータには判断できないからだ。防犯カメラが役に立つのは犯罪が起きてから後の事で、起きる前は何の役にも立たない。「防犯」という名前は冗談か皮肉でしかないのだ。
学校や保育園、福祉施設でも防犯カメラを設置する所はある。しかし、コストパフォーマンスを考えると本当に割が合わない非効率極まりないものだ。諸君の中で防犯カメラの録画した画像をどうするのか知っている人はいるだろうか?実を言うと録画した内容は殆どろくなチェックもしていない。何らかの事件や事故が起きて初めて見るくらいだろう。大抵はデータは上書きされるか破棄されるかどちらかだ。
まず防犯カメラが録画したデータなどを再生して、何らかの犯罪や異常が起きていないか調べるのだがこれが本当に労力と時間がかかる。幾ら短縮されていても一日24時間分を見るのはかなりしんどい。しかもカメラの分だけそれだけテープは増えるわ、画像は悪いわで真面目にチェックする気がしなくなる。
せっかくチェックしても何もなければ本当は喜ばしいことだが、無駄なことをした疲労感は残る。だから誰も録画内容は見なくなるし、雇用者側も無駄な人件費なのでやらせなくなるのだ。防犯カメラはプライバシーの問題など心理面での悪影響も大きい。しかも対犯罪効果も疑わしいなど課題も多すぎる。
因みに一番真面目に防犯カメラの画像を調べるのはコンビニのオーナーたちだろう。コンビニなどは録音もできる高性能なカメラをつけているが、その目的は防犯というよりもアルバイトの勤怠管理の側面が強い。コンビニオーナーたちは万引き犯よりもアルバイトがレジの金や商品を盗むことを恐れているのだ。収支の計算が合わないときは絶対カメラの録画を調べるだろう。
小学生や幼児に防犯ブザーを持たせる親も多い。ここで俺が何を言いたいか読者の皆はもうわかるだろう。防犯ブザーを持たせて防犯に役立つことは殆ど無い。防犯ブザーも適切に使えば効果はあるだろう。しかし、いざという時に防犯ブザーを使えるかはかなり疑わしい。諸君の中で消火器を職場や家、アパートのどこに置いてあるか知っている人間はいるだろうか?おそらく知らない人が多いだろう。例え知っていてもいざ本当に火事の時に冷静に消火器を使えるかといったら難しいだろう。人間滅多に起こらない状況には対応できないものだ。
「知らない人に付いて行ってはいけません」と子供たちに言うのも効果があまりない。携帯電話や防犯カメラ、防犯ブザーもダメ。だったら何が一番チャイルド・セイフティーに効果的か?それは人間に他ならない。人間の犯罪に対抗できるのはデバイス・ビーイング(装置の存在)ではなくヒューマン・ビーイング(人間の存在)に他ならない。子供だけの集団下校も効果的だが、できれば大人の存在があればより効果的だ。所詮、機械では人間には勝てない。当たり前のことだがそんな当たり前のことさえ解らない大人が多すぎる。携帯電話や防犯ブザーを子供に渡して子供を守りたいなど、厳しく言えば親を始めとする大人たちの怠慢に他ならない。
メディアなどはあまり指摘をしたがらないが、子供が犯罪に巻き込まれるのは間違いなく周りの大人たちの責任が大きい。単純なことだ。子供と接する時間が少なければ少ないほど異常を見抜くのが難しくなる。これは老人施設や障害者施設でも同じ事だ。近年親たちが子供たちと過ごす時間は女性の社会進出も相まってますます短くなる一方だ。中には親よりも保育士と過ごしているほうが長い子供も珍しくないという。そのためか親との関係が希薄な子供が増えた。よくファミレス、電車などで騒ぎまくっている子供がいるのに全く注意しない親をよく見かける。親子関係が希薄なために子供は親の注意を聞かないし、親も子供に強く注意できないのだ。苦々しく思う人は多いだろうが、これも近年の親子関係を象徴している。それでいて学校に子供を躾けることを要求するのだから始末に負えない。
エル・ドマドール
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