[43]福祉の環境問題

2018年8月25日

ここ最近よく環境問題が注目を集めるようになった。CO2削減、地球温暖化、海面水位上昇、異常気象、京都議定書から果てにはレジ袋削減、リサイクル活動、古紙再生、バイオエタノール、原油高騰、コンビニ深夜営業自粛まで環境問題に関わる事柄がメディアに載らない日はないのではなかろうか?
介護の分野ではあまり環境問題について言及されていない。しかし、今回あえてこのメールマガジンでは介護の環境問題を論じてみようと思う。
良いか悪いかは別にして福祉の分野では環境問題に関しては殆ど無知蒙昧、殆ど意識さえされていない実態がある。他の業界では環境問題を狡猾に利用したり、あるいは真剣に考慮したりしているが、福祉分野ほど無関心なところはない。せいぜいゴミの分別を正確にしろと注意される程度だろう。他の業界から見たら信じられないだろうが、何らかの形で地球環境に貢献しようという発想は殆ど無い。よく福祉業界の常識は一般社会の非常識と皮肉を言われるが、こと環境問題に関しては確かに社会の趨勢とかけ離れていると認めざるを得ない。
ここで問題を提起しよう。介護業界は地球環境にどのような影響を与えているのだろうか?
結論から言えば、介護分野の中でもとりわけ24時間営業の入所施設ほど地球環境に良くないものは無い。不夜城の介護施設では昼夜を問わず莫大な電気が必要になる。照明は勿論のこと、夏になれば脱水を防ぐために空調も使わないとならない。洗濯機も24時間常に運転している。湯を供給するためにガスも24時間必要。その湯を供給するために水道も文字通り湯水のように使う。また介護施設ではゴミの量も多い。特に一般家庭と違うのは使用済みオムツだろう。オムツには糞尿も含まれているためにどうしても悪臭がする。多くの施設はオムツを新聞で包んだり、2重にゴミ袋を重ねたりしている。とても環境にやさしくないが、排泄は生理現象だから減らすこともできない。
これがもし病院や老人保健施設ならさらに医療廃棄物が追加される。点滴袋、注射針、カテーテル容器、注射器、ガーゼなどなどどれも処理に困るものばかりだ。世間ではゴミを減らそうとしているが、介護施設では逆方向にベクトルが向いている。幸か不幸か昔は利用者は自由に外に出ることはできなかったために買い物の量も少なく、一般ゴミは少なかった。しかし、今は違う。人権意識が向上し、外出の機会が増えた上に介護施設も人口の多い商業地などにも建設されるようになった。またコープのように電話一本で宅配を受け付けてくれる店も増えた。つまりゴミが増える要素が増大してしまったのだ。
およそ環境保護論者が見たら、介護保険施設がしている資源の浪費はあまりにもショックで心臓麻痺を起こしかねない。そもそも施設に環境保護を守るために何らかの社会的貢献をする発想は皆無に等しい。電気代やガス代の節約を訴える経営者は多いが、それは公共料金を節約したいだけのところが殆どだ。ましてや多くの有料老人ホームやケアハウスの多くでは公共料金は利用者本人に課金されるから、ますます経営側は環境保護には疎くなる。そして利用者も環境問題など知ったことではない。
勿論知的障害などで環境問題を理解できない人々もいるが、知的障害が無い人でも殆どの利用者は環境問題など関心が無い。ゴミを少なくしろ、エアコンは控えめに、水道や電気は節約しろなど環境保護運動にはどうしても我慢を要求するものが少なくない。介護施設の老人や障害者たちにとってそんなシロモノは当然お断りだ。後期高齢者医療制度でさえ、あれだけ反対するのだ。自分たちが犠牲になって世の為に尽くすつもりなど大多数の高齢者にはない。
少し本題から逸れてしまうかもしれないが、俺の環境問題についての意見を述べよう。
結論から言えば現在の先進国が取っているような文明生活では化石燃料が枯渇するまで地球を破壊し続けるだろう。我々が石油に依存するライフスタイルを変えない限り、環境の破壊は止まらない。だが、石油に依存しない生活と言っても今更昭和初期のような生活に戻れるわけがない。石油を使わないということは車もないし、携帯電話もない事を意味する。そんな生活にあなた方は甘んじられるだろうか?できるわけが無い。先進国はインドや中国の新興国の環境破壊を非難するが、彼らにそんな資格はない。今まで散々石油に恩恵に与ってきたのに今更どの口で新興国に「地球の為に我慢しろ」と言えようか?
環境問題に取り組むと称して、京都議定書、レジ袋削減、ゴミ回収有料化、リサイクル、太陽光発電、水素エネルギーなど様々な取り組みをしているが、これらは余計環境に悪いか、ナンセンスかのどちらかだ。(詳しくはHPのお勧めBooksにも紹介しているが、武田邦彦氏の「環境問題はなぜウソがまかり通るのか?」を読んで欲しい)環境問題はそんな小手先の手法では解決できないぐらい根が深い。現代人が高度文明を破棄しない限り解決は不可能だ。よく多くの企業がエコロジーをアピールしているが、冗談ではない。本当にエコロジーを目指すなら彼らを倒産させないといけないのだ。
もし俺が「介護施設で環境問題に取り組むにはどんな方法があるか?」と聞かれたら、俺は冗談めかしてこう答える。「本当に環境のためなら施設に硫化水素を撒くことだね。でも無理だろ?」環境保護には人口削減はかなりいい方法だ。しかし、人道的に問題がありすぎる。本当に実行したらナチスの優生思想と変わらなくなってしまう。介護施設が環境問題に本当の意味で貢献するのは不可能に近い。
多くの人々はスーパーでマイバッグを持参すれば、簡単に環境問題に貢献した気分になるだろう。しかし、本当に環境問題はその程度の簡単なモノではない。それはまさしく究極の選択を迫るものなのだ。文明を破棄するか、石油が枯渇するのを待つか、それとも地球を破壊するか?あなたならどれがいいだろうか?
エル・ドマドール
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