[058]CEPAで甦るか香港

 最近、会社経営者の知人が香港に久しぶりに出張しました。返還前の香港を知り尽くしている彼としては「さびれましたね。欧米人も日本人も減ったし、街には活気がないし。中国本土からの観光客は増えたみたいですけど。」というのが帰国後の第一印象です。確かに返還されても一国二制度の確約は守られ、行政的には香港は独立国とほとんど変わりません。ところが、返還を機に台頭著しい、そしてコストの安い本土へ拠点を移す外国企業が急増したのです。日本人駐在員も 1万人以上減ったといいます。外国人駐在員とその家族、そして観光客が減るだけで香港の観光業、不動産業、小売業にはかなりの打撃であったようです。
 さて、10月30日には都内のホテルで「香港華南シンポジウム CEPA (経済貿易緊密化協定) がもたらす事業機会」というセミナーが行われました。香港からのミッション・リーダーは香港行政区ヘンリー・タン財務長官です。CEPAというのはClose Economic Partnership Arrangementの略で来年 1月 1日から試行される香港と中国本土間の自由貿易協定のことです。製品貿易については「香港製」と認定される製品 273品目につき中国に輸出する際「ゼロ関税」が適応されます。サービス貿易については18分野の香港を拠点とするサービス産業の中国における市場開放が行われます。貿易および投資手続きの簡素化が行われます。


 これを読んで「何だ、香港って中国本土から見たら外国と同じだったのか」と驚く方も多いかと思います。私から意地悪く言わせると、外国であり続けたい香港であるものの、対中投資額は大きいし、他国に比し何のメリットもないのは不満、というところでしょうか。そして特に世界の工場、中国全土の輸出の 4割以上を占める広東省(香港の裏庭に位置します)でのビジネスチャンスを広東省からのミッションとともにアピールしました。広東省の深セン、東莞、広州の3都市の一人あたりGDPはすでに上海を抜いており、市場としても有望というものです。
 そして、このCEPAにおける香港企業の特典は一定の条件を満たした外資系にも適用されます。すでに日本企業2000社あまりが香港に拠点を持っているため、この制度を活用しましょう、まだ拠点がなくても香港企業を買収したり、業務提携をしていればこの制度が活用できます、つまり広東省へのゲートウェイとして香港への再投資が今回セミナーの目的でした。
 私などは、すぐれた金融、貿易システムを持ち、英国仕込みの司法制度を持つ香港企業の介在なくしては中国貿易を考えられないのですが、確かに返還後はアジアにいながらにしての英国的風情は薄れ、百万ドルの夜景ともうたわれた高層ビル群も本土に雨後のたけのこのように増えていく真新しいビル群に比べると何だか色あせて見えます。さてこのCEPAは香港に起死回生のチャンスを与えるものとなるのでしょうか。また、中国は WTO協定の施行より 2年早くこの自由貿易協定に取り組むこととなりますがどんな対応を見せるかも楽しみです。
河口容子
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