[068]チャイナ・マネーの急襲

 私が中国へ日本製の消費財を輸出していると言うと「中国で日本製品を買える人がいるのですか?」「日本より安く売っているのですか?」とたずねる人がたくさんいます。正直なところ時代遅れな質問です。日本は二極分化しつつあるとはいえ、まだまだ大多数が中流で一流ブランドのバッグをほとんどの人が頑張れば買える社会です。60回払いというのも最近見かけましたので多様なクレジット機能を使えばそんなに難しくありません。そんな市場を中国に期待すればこれは何十年たっても来ないでしょう。
 香港のビジネスパートナーは中国4都市に基点があり、アンテナショップも持っています。当然日本製品を買えるターゲットの囲いこみは必要です。このターゲットの女性の場合は20代なかばから40代前半くらいがメインです。先日調査を 100名くらいに対して行ったところ、全員短大卒以上、月収は日本の物価に換算して45万円から90万円、管理職や経営者の比率が約半分です。既婚者であればご主人とダブルインカム、独身であれば一人っ子世代で両親と双方の祖父母の6つのポケットを持つ人たちです。ぜいたくさえしなければ食や住のコストは日本の比ではありませんので、可処分所得「率」たるやすさまじいものがあります。
 本土から香港への旅行が解禁されてから、香港の景気も本土からの観光客でうるおい始めました。先日、テレビで九州のある街に中国からの団体旅行がやって来た様子を見ましたが、大型量販店でひとり平均20万円程度買い物をして行くそうです。60万円持ってきた男性もいましたが「特にお金持ちではない」とのことでした。つまり、日本人が「中国は貧しい」と勘違いするのは農村や工場労働者を見てのことであり、中国でモノ作りをするにはその視点で間違いがありませんが、日本人並み、いやそれ以上の人々が大勢いる階層社会である事も忘れてはなりません。


 年末から知人の会社の中国、東南アジア関連ビジネスのアドバイザーをお引き受けすることになりました。この会社は技術や技術者のビジネスマッチングを行っています。日本の空洞化で日本ではもはや生かせない技術やノウハウがあります。使わなければ技術なりノウハウは錆付き滅んでしまいます。この技術なりノウハウは日本の資産です。私自身は技術面の知識はありませんので、中国や東南アジアでこれらを生かす際に異文化コミュニケーションやリスク・マネジメント面でこの資産を守っていくお手伝いをします。
 新春早々、この知人の会社で中国からの投資案件、それも複数が飛び出しました。中国の企業が余剰資金を日本企業に投資しようというものです。当然、本国のビジネスと関連づけての投資もあるでしょうが、リスク分散のために海外に資産をおきたいという人もあるでしょうし、投資案件として妙味があれば自分の本業とは関係なくても投資をします。また、手仕舞いも早い。中国の上流階級、それがこの投資家たちです。
 「中国って社会主義で平等じゃないの?」という質問も聞こえそうですが、戦後の高度成長期からバブルまでの日本がどうやら社会主義に近かったようです。失われた10年をいつまでも嘆くより、チャイナ・マネーの急襲が日本経済の救世主となるのか、バブル時代の日本から米国への投資ラッシュのようにトラブルの種となるのか、慎重に見守っていきたいものです。
河口容子