[073]客観視のススメ

 確か起業して 1-2年目のことだったと思います。どうして私のメールアドレスを知ったのかわかりませんが、大手総合商社の北京駐在員を辞め、現地で起業された方から相談のメールをいただきました。私の在職していた総合商社ではないのでお顔もお名前も存じ上げない方です。「起業してから半年になるものの、1件も仕事が来ない、現地の人も雇ってしまったし、この先不安である、通訳や翻訳の仕事ならあるだろうが、自分はそんな事をするために起業をしたのではない。」という内容だったと思います。
 大企業の社員にとって「去る者は日々に疎し」。よほど親しい人でない限り、辞めた直後は覚えてくれているものの、日々の仕事に追われ、そのうち在職していた事すら忘れられてしまうのが普通です。大企業にいれば嫌でも仕事は降ってきます。一方、できたばかりの企業では知名度も実績もなく、最初から商権を持っていない限り、じっとしていて仕事をもらえるわけがありません。
 私はまず、会社を維持するのに毎月どのくらいの経費がかかるのか計算し、まずそれを稼ぎ出す方法を考えるようアドバイスをしました。通訳や翻訳の仕事は起業の目的ではなくても、顧客のニーズやトレンドを探すチャンスであり、本来の仕事への足がかりであり、また自分の会社をPRする機会になるかも知れないと私は言いました。ものは考えようです。


 こういうご時世ゆえ、社内の人間関係や先行き不安から感情的に仕事を辞める人もいるでしょう。また、実に簡単に起業やニュービジネスを思いつかれ、相談に来られる方がたくさんいらっしゃいます。「やる気」というのは大いに評価しますが、たいていの方に欠けているのが、自分や自分の事業に対する客観視です。他人から見て自分や自分の会社にどのような価値があるか、強みと弱みは何か、市場での競争力などを考えてみることです。これは先週も触れましたが、リスクマネジメントにもつながります。
 私の場合は、商権ゼロからスタートしましたし、知人友人からの仕事の紹介をあてにすることは一切しませんでした。第三者から評価してもらえるにはやはり実績です。そして私の会社のように小さいところは「質」を重視すべきであろうと考えました。過去の遺産(経歴)はあくまで会社員としてのものです。それだけでは売り物にはならないと思い、最初は今までやった事のない商品や切り口にチャレンジしてみました。私の仕事はコンサルタントとはいえ、極めて実務に近いところにあります。実務能力を維持できるクライアントを持つこと、そして貿易促進に関する仕事で、できれば国際的に評価していただける履歴を毎年2つは最低作るというのを現在の目標にしています。
 うまく行っていない小規模企業の経営者の方を見ていると、「思いこみの強すぎる」タイプ、つまり自分サイドでしかものを考えられない人、と「目先のお金のためなら何でもやる人」があります。前者は取引先や市場ひいては従業員から浮き上がってしまう危険があります。後者については「何をやっているかわからない会社」と言う意味で特に日本では信用を得にくくなります。会社員も同じですが、経営者も自分の置かれた立場を客観視できれば、なすべき事はおのずと明確になり、意味のない不安にかられることも少ないと思います。
河口容子