[321]秩序と支え合いの時代へ

パンデミック(世界的流行)は新型インフルエンザではなく、不況のほうでした。日本でも11月から雇用環境が一気に悪化、それもつい最近まで花型産業であった自動車産業を中心に続出したため、よけい日本人の不安をかきたてています。私自身が会社員時代に労働組合の人事制度諮問委員をやっていた事や現職でさまざまな中小企業と接する関係上雇用問題には関心があります。このエッセイの前作「日本がわかる」シリーズは2000年10月からスタートし、当時もバブル崩壊後のリストラが続いておりました。当時の関連する記事をふたつほど下記にあげておきますが、年功序列や終身雇用が崩壊しただけで、それに代わる明確な仕組みはなく、逆にコストの調整弁としての派遣社員、契約社員が増加しただけ、という有様が浮き彫りになりました。一方、勤労者のほうも出世なんかしなくてもいい、高い賃金をもらわなくても良い、自分なりにまったり暮らせればそれで良い、というあきらめ、悪く言えば「怠惰」な姿勢が普通になってきたような気がします。
2009年は企業や勤労者がそのあり方を再考する年であってほしいと思います。自由と平等と良く言いますが、自由にすればするほど平等ではなくなり、平等を実現しようとすれば個々人が我慢を強いられる部分も多く自由ではなくなります。規制緩和により平等はどんどん失われていきました。規制緩和はしても秩序は保つ工夫をする、これは経済活動のみでなく道徳観や教育のあり方、家庭環境においても言えることではないでしょうか。
そして「支え合う」ことの再認識。2008年12月18日号「不況を生き抜く自力、地力、知力」で紹介したように仲良し同業者の集まりはワンマン(一人)企業の私にとって時にはコラボ相手にもなる強い味方です。また、2008年12月25日号「中国 不払いの伝統の考察」で触れたように私が安心して中国ビジネスができるのも香港のビジネス・パートナーやその実弟の弁護士、香港のクライアントのコンサルタント集団のおかげです。
起業をされる方は一匹狼的な個性を持つ方が多いと思いますが、決して孤独に陥らないこと。「感謝し、感謝される」ネットワークをどれだけ広げられるかが今後の生き残りの秘訣だろうと思います。それは仕事上のつながりのみでなく、家族や友人といった精神的な支柱も良いでしょう。ただし、支えてもらう一方ではなく、「支え合う」ことがポイントです。
さて、クリスマス、新年、旧正月とアジアのホリデー・シーズンたけなわですが、この期間の楽しみは各国の企業オーナーたちとの打ち合わせや雑談です。取引先、社員が休みに入ると彼らもゆっくり話す時間ができるからです。ニュージーランドにいる友人(中国系インドネシア人)に「夏のクリスマスってどんな感じなの?私は経験したことがないのだけれど。」と聞くと「ジャカルタにいた頃から夏のクリスマスしか知らないよ。でもジャカルタのほうがはるかにクリスマスっぽかったね。こちらでは人口の60%は無宗教なんだ。買い物に行くのが習慣みたいだよ。うちでは家族で教会に行ったけどね。」世界一のイスラム教徒を擁するインドネシアのほうがニュージーランドよりクリスマスがさかんとはこれ不思議。
一方、香港のビジネス・パートナーの方からは仕入先との問題、日本人担当スタッフの急な退職願いに関する相談、今年シンガポールの政府機関から民間企業の役員に転じた女性からは忙しいけれど元気でやっている様子が伝わって来ました。こんな感じで私の年末年始はいつもと変わりなく「支え合う喜び」を感じながらパソコンに向かい過ぎていきます。
河口容子