[320]中国 不払の伝統の考察

中国で代金を回収するのが至難の技というのは有名な話です。もちろんお金がなくて払えない事もありますが、お金があっても払わない。不払は商習慣、文化、いや伝統ではないかと思うくらいです。
笑い話のような実話があります。日本のアパレル企業の役員さんです。中国では代金の回収が不安ということで日系のデパートに出店することしたというのです。1年ほど経過した頃様子をお聞きしたところ「よく売れるのですが、売掛金ばかりふえて現金はもらえないのです。」「日系企業なのに?」「経理の責任者は中国人ですからどうしようもありません。」
ある機械メーカーの社長さんの場合、中国の取引先に毎月 2名技術者を派遣していました。毎月支払うという契約なのに 1年以上経費が不払のまま累積し、倒産しそうだというのです。社長さんご自身も技術者で借入をするには決算書をきれいにしておく必要があるという経営の初歩すらご存じなかったというおまけつきです。「支払が遅れて催促をされなかったのですか?」無言の時間が流れました。「なぜ催促をされなかったのですか?」「最初は来週払ってくれるだろう、月末払ってくれるだろう、一時的に資金がショートして払えず恥ずかしくて遅れると言えないのだろう、きっと心の中では申し訳なく思っているに違いない、そう思うことの繰り返しでした。」「なぜ技術者の方を引き上げなかったんです?国内で仕事をしてもらえば良かったのではないですか?」「 2年がかりでやっと見つけた取引先ですし、中国市場に賭けていました。それを失うのが惜しかったし、こわかったんです。」中国側は悪いと思うどころかこの社長さんの弱腰をこれ幸いと利用したに違いありません。
私の香港のビジネス・パートナーは英国在住経験もあり、上記のような事は決してありませんが、時々香港の古くからの知人に引っ掛かっているようです。日本人なら二度と顔も見たくない、となる所ですが、ほとぼりがさめるとまた一緒に仕事をしています。「狐と狸の化かし合い」長年続けばお互いの損得も平均値におさまるという発想なのかも知れません。
香港のクライアント D氏は仲が良い中国人社長に契約金額の半分しか払ってもらえなかったとこぼしました。中国人社長は子供の頃から香港で教育を受けているにもかかわらずです。「その社長はあなたに迷惑をかけたと思わないの?それでも前のように友達関係は続くの?日本人には理解できません。」と私。この話からふと感じたのは日本人はお金がなかったり、払うつもりがなければ契約はまずしません。ところが中国ではとりあえず契約をしてしまい払わない方が勝ち。また受け取る側も不払のリスクを契約金額に含めているのではないか、ということです。
もともと中国には「出世払い」の伝統や「支払を遅らせる能力が評価される」と聞いたことがあります。ゆえに私の香港のビジネス・パートナーいわく「中国人には支払わない何百もの理由がある」と。専門家によれば中小企業に対する融資制度が発達しておらず現金を社内留保せざるを得ないばかりか、支払を遅らせてその間運用して金利を稼いでいる経営者や経理担当者もいるそうです。おそるべしこの身勝手さというかメンタリティの強さ。
香港でも言えることですが、中小企業の支払いはすべてオーナーなり社長が握っています。ボスの出金指示がない限り経理担当者も支払いはできません。ボスが多忙だと指示を忘れることもあります。ですから悪意はなくても不払がおきることはあります。そんな時はすかさず催促をすることです。日本人はどうしてもお金の話をするのをためらいがちですが、催促や確認をしなかった方にも非があると言われる場合もありますから前述の機械メーカーの社長のように希望的観測を続けると大変な目にあいます。
河口容子