[077]外国人留学生

 報道によれば、昨年 1年間に摘発された外国人刑法犯のうち、「留学」や「就学」の在留資格者は 5年前に比べ 2.6倍になったそうです。そのうち国籍別では中国人が 8割を超えるといいます。犯罪者が留学や就学を装って入国してくると勘違いされる方もあるでしょうが、日本の入国管理というのはそんなに甘いものではありません。また、ここ 5年の中国の成長の著しさや日中の交流の増加を考えると在留外国人のうち中国人の比率が高まるのも不思議ではありません。以前は日本企業における「外国人スタッフ」というと欧米人を連想しがちでしたが、今はアジア人のほうが多いような気もします。
 昨年、たまたま視たテレビでは、農村に住む一家が長男をなけなしのお金をはたいて日本へ日本語を学ぶために留学させるというドキュメンタリーをやっていました。日本語が話せれば中国で高い賃金を得られるからです。青年は時には家族の期待という重圧につぶされそうになりながら、清貧に勉強していました。そこで、私が感じた素朴な疑問は中国には立派な外国語大学がたくさんありながら、なぜこんなに物価の高い日本に来てまで日本語を学ばなければならないのか、ということです。広州で日本語を学ぶ青年と会ったことがありますが、彼は日本に来たことがないにもかかわらず、ほとんど完璧なまでの美しい日本語を話せました。


 この疑問に日本語学校の教師をしている知人が答えてくれました。日本にやって来る背景は実にさまざま。少数民族の優先制度や出身地による枠などで行きたい大学に入れない、あるいは学びたい言語を学べないということもあるそうですし、日本にもよくあるようにレベルの高い大学には学力的に無理な子どもを持つ金持ちの親が聞こえがいいように「日本へ留学」させるケースもあるようです。その実、生活費や学費に追われる学生もいれば、特に彼女の勤務するような日本の大学への進学校では携帯電話を持ち、きちんとした身なりをしていると言います。
 彼女の職場はまさに異文化コミュニケーションの最前線です。日本の大学に入るために日本語を学ぶ学生がほとんどで、教師は進路指導もしなくてはなりません。また、生活指導にも忙しく、欠席、遅刻、早退のケアも行います。危ない所に行かないか、怪しげなアルバイトをしていないか。彼らはもう子どもではありませんし、その態度から何か問題があると思えば通訳を入れて様子を探るという事もするそうです。教師の責任の重さや緊張に対する報酬はあまりにも少なく、「長く続けられる仕事」としてはまだ成立していないのが現状です。確かに学生たちは夢を見ているのかもしれないし、単純に甘いのかもしれない。それでも、何もしなければ、何も生まれない、彼らの行動力をできる限りサポートしてやりたいというのが彼女の今の気持ちのようです。
 法務・入管当局は、この春から外国人の就学に関する入国審査を厳しくする入管難民法改正案を今国会に提出しているようです。治安維持のためといえばそれまでですが、本来学校というところは広く門戸を開けておくべきものだと思います。ただでさえ、日本の学校は国際化が遅れています。また、入国審査が厳しくなることにより、書類偽造や闇の斡旋業者のようなものがかえって増えるのではと危惧します。
河口容子