[078]グレーター香港

 昨年11月 6日号で「CEPAで甦るか香港」というエッセイを書かせていただきました。今月、香港貿易発展局が帝国ホテルで開催したセミナー「CEPA(経済貿易緊密化協定):香港に学ぶ中国ビジネス成功の方程式」には定員 300名のところ、600名を越す受講応募がありました。年度末という時期にも拘らず、これだけの受講者を集められるのも、ビジネスパーソンの中国ビジネスへの熱気が強まっていることを示しています。ちなみにCEPAは日本人は「セパ」と呼んでおりますが英語では「シーパ」となります。
 本土返還後、上海の勃興(歴史的には復活かも知れません)ともに凋落したかに見えた香港経済も、今月大手市場調査会社が、香港の消費者マインドは 1997年の返還前の水準にまで回復したと発表しました。前にも触れましたが、本土からの旅行者に対するビザ申請手続きの簡素化、広東省の一部都市住民に香港への個人旅行ビザ申請が解禁されたことにより、本土からの旅行者が大幅に増加しています。また 1月から発効したCEPAにより、本土からの出張者も急増、SARSに苦しめられた昨年が嘘のようです。不動産価格の上昇や輸出も好調なことから、 CEPAを活用したグレーター香港(香港と広東省、いわゆる珠江デルタをさします)を目指しています。


 先日のTV放送ではビジネスを通じ本土に住む台湾人は家族を含め約 100万人と聞きました。台湾は公用語が北京語ですから、本土のどこへでも言葉の問題なく出て行けます。ところが香港の場合は母語が広東語で返還前までは英語教育に力を入れられていました。北京語が話せるのは本土の広東以外とビジネスをしていた人たちくらいです。本土とのビジネスに関しては台湾に比べれば言語的に香港は不利だったと言えます。
 ところが広東省は言語は香港と同じ広東語です。もともと「来料加工」といって日本でいう委託加工のような形での結びつきが香港と広東にはあります。それを発展させて今では「前店後廠」、香港のすぐれた金融、貿易、マネージメントサービス、世界の工場広東との相互補完関係を世界最強のビジネス・モデルにしようとしています。
 台湾企業も香港企業も日本を含め本土における外国企業とのジョイント・ベンチャーに積極的です。なぜなら、万が一本土に併合された場合、外資が入っていれば外資系企業として免れるからだという政治的な見方をする方もいます。私自身は、特に日本の中小企業については資本や人材、経営ノウハウ面に問題があることが多く、本土と同じ中国人でありながら親日的な台湾や香港をビジネスパートナーとして本土ビジネスを展開するのが安全かつ効率的ではないかと考えています。もちろんパートナー選びも慎重にしなければいけませんが。
 さて、前述のセミナーに出席して気づいたことは、日本人ビジネスパーソンは、昔から中国の事をよくご存知の方は情報がアップデートされていない、最近中国ビジネスを始めた方は経緯がよくわからない、という傾向があることです。たくさんの中国本が書店に山積みされていますが、目まぐるしく変わる中国です。古い情報を鵜呑みにしないことが大切です。また、一般論や伝聞情報だけに頼るのではなく、現地の情報を自分の手で掴むことも大切だと思います。
河口容子