[143]クレーム解決のマナー

 最近の国際宅配便は、貨物ごとに個別の番号がバーコードで付けられ、業者で決めたポイントを通過するたびにスキャンされ、その結果をインターネットで追跡することが可能です。このシステムが世に現れたときは本当に素晴らしいと思いました。なぜなら、時として急いでいる貨物に限って遅れ、そもそも遅れて出したのではないかと相手に疑われたり、途中で貨物が迷子になっていたり、実は荷受人が不在で受け取るのが遅れただけなどと、原因はさまざまです。
これが誰の目にも一目瞭然なわけですから、原因究明が簡単になったと同時に誰も言い逃れもできなくなりました。私の使っている米国系の国際宅配便はご丁寧に受け取った人の名前まで確認することができます。確かに受け取り貨物の多い企業や受取人が不在がちの職場などでは受け取った、いや受け取っていないなどのトラブルがおこりがちで、このシステムも安心してこの業者を利用できる理由のひとつです。
 最近、ダンボール箱にぎっしり商品サンプルを詰めて香港のビジネスパートナーへ送りました。通常、夕方までに私のオフィスを出た貨物は翌日の昼ごろ香港島セントラルにあるオフィスに届けられます。ところが、この時の貨物は不思議な動きをしました。香港の空港に着いたものの、そのまま中国の深センに転送され深センの税関でずっと停まっているではありませんか。結局、貨物は土日をはさんで1週間近くかかって届けられました。これではわざわざ料金の高い国際宅配便で送る意味が半減してしまいます。
 そこで私はカスタマー・サービスになぜそのような事が起こったのか理由の説明を求めました。回答によっては間違いが起こらない工夫をする、あるいは以後違う業者に変更することも検討せねばなりません。しかしながら、ポイントはいきなり相手の非を攻め立てないことです。国際物流は国際バケツリレーです。私のオフィスに集荷に来てくれた業者のスタッフを始点として、日本と香港の税関も含め何人もの手を経て運ばれるのです。最初から犯人を決め付けると後で引っ込みがつかなくなることがあります。私の知らないところで不測の事態が起こった可能性もあるのですから。
 この業者のカスタマー・サービスのアクションは素晴らしいものでした。 1時間以内に回答が来ました。香港空港に着いてから仕分けミスで貨物は深センに行ってしまい、取り戻すため深セン税関の許可を得るのに時間がかかってご迷惑をおかけした、料金の請求を差し控えさせていただきます、というものです。米国企業の潔さを感じました。日本企業の場合は、「謝れば何とか済む」と考えたり、「言い訳を考えるのに時間がかかる」傾向があるような気がします。クレームの解決はまずスピードが一番のサービスです。時間がたてばたつほど調査もしにくくなりますし、お互いに気分も悪くなります。 
 日本人の中には、「遅かったなあ。まあ着いたからいいか。」と席でぶつぶつつぶやいてそれでおしまいのケースも多いでしょうが、私自身は標準的なサービスを得られなかったときはまずは原因究明がその後のトラブル防止につながると考えます。また、業者にとっても聞きたくない話でしょうが、社内での注意喚起や改善につながると思います。もちろん、問い合わせる方もスピードが肝心です。忘れた頃に問い合わせては、データなど調べるのに時間がかかりますし、当事者の記憶に残っていない事もあります。たとえ問い合わせた方が被害者であっても何となく怠慢な印象はぬぐえません。
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