[203]トインビーの予測

 最近、1967年にアーノルド・J・トインビーが来日したときの「予測」について聞いたり、読んだりする機会がふえました。同氏は1889年に生まれ、1975年に亡くなったイギリスの有名な歴史学者です。
 その「予測」とは、「これからの日本はどうなるのでしょうか」との問いに「日本は必ず成功する。自分は歴史学者なので10年、20年先のことはわからないが50年、 100年先のことならわかる。」と言い、「今は米国が大事かも知れないが、いずれ中国が大切な相手となる。日本が中国と一対一で向き合うと過去の戦争のようなことになるので考えないほうがいい。東アジアでは、日本、朝鮮半島、ベトナムという良い国があり、いずれも集中力があり成功する。この 3国で協力して中国と語りあうのが良い。」というものです。
 当時の日本は第 2次佐藤内閣、子どもに人気のあったのは「巨人、大鵬、卵焼き」の時代です。若者たちの間ではラジオの深夜番組やグループ・サウンズが流行り始めた頃です。米国ですらまだ大規模な黒人暴動の起こっていました。中国は文化大革命、韓国は軍事政権から民政に変わった年で民主運動が起こるのは1980年代です。ベトナムはもちろん戦時中。その中でトインビーの予測は当時かなり大胆なものであったと言えましょう。予測から40年ほどたっていますが当たっていることに驚きを覚えますが、歴史学者というのは何百年、何千年というスパンでものを見ますのでものごとの道理や本質を見抜けるのかも知れません。
 日韓関係は政治的にはぎくしゃくしているものの、文化、芸能、スポーツ、観光を通じて急接近しており、韓国の方にとって「日本語」を話せることはステータス・シンボルのようです。一般の方にはわからないかも知れませんが「中国製」といっても韓国系の工場で生産しているケースも少なくありません。私の取引先(日本企業)は中国に提携工場を数社持っていますが、いずれも韓国系です。
 一方、ベトナムについては「日本語話者世界一」を国家政策としていますが、他のアセアン諸国と比べ最も日本人にとって違和感がない民族ではないかと思います。アセアン10ケ国の方々とはすべて仕事でお会いしますが、ベトナムの方はたたずまいやリアクションが非常に日本人に似ていると思います。
 ベトナムの北側はすっぽり中国におおわれており、またトンキン湾には海南島がせり出しています。中国はベトナムをアセアンのゲートウェイとしようとしており、陸上輸送の効率化や通関の簡素化が期待されています。また韓国からベトナムへの投資も日本同様非常にさかんです。4月にハノイの国際見本市会場に行ったときは、韓国企業の出展の多さに圧倒されました。トインビーの予測したアジアのリーダー国は今、ベトナムを接点として集まってきています。
河口容子