[111]東アジアの近未来

 先週、「東アジア経済連携推進フォーラム」を聴講してきました。午前中は日、中、韓、マレーシア、タイ、フィリピンの政治・経済界の識者たちによるシンポジウムでした。
 現在、私の仕事のテリトリーはアセアン諸国と中国に絞りこんでいます。会社員の頃からもう10年くらい取引をしながら、 ASEAN諸国と中国との比較を個人的な興味もありやってきました。零細企業にとっては「安近短」というメリットもありますし、さんざん味わってきた欧米人に対するような気負いも背伸びも不要で体力的にも楽な気がします。今まで遠いところに通勤していた人が、退職してコミュニティ活動に力を入れ始めたような気分です。
 日本人の中には「アジア人の意識が薄い」人がかなりいます。欧米のことは結構知っていても、アジアのことは本当に知りません。ここ数年の上記の国々の経済発展はめざましく、トップ企業のマネジメント・レベルは日本より高いと感じることもしばしばです。特にバブル経済を経験した多くの日本人の大人たちは、いまだに「ジャパン・アズ・NO1」の幻想を捨てきれず、彼らがどんどん追い越そうとし、追い越して行っているのを認めようとしません。もちろん、日本にもまだまだ国際的に強い分野や産業はあります。日本ならではの良さもないわけではありません。ただ、国を挙げての国際化は彼らより遅れたことは事実です。
 象徴的な出来事が近鉄とオリックスの合併劇に始まったプロ野球界の騒動です。要は旧態依然とした管理システムではもはや国際化に対応できないということです。優秀な選手はメジャー・リーグへ行き、それに伴いメジャーの放映もふえ、日本のプロ野球が物足らないファンがふえてしまったという按配です。


 また、最近ふえてきたのが創業30年以上の老舗の倒産です。「腐っても鯛」と思うのか「継続も力なり」と思うのかわかりませんが、日本では創業年数が長いのは信用力のひとつだったはずです。一方、国際的には3S(シンプル、スモール、スピード)の時代です。日本の大企業特有の複雑な組織編制や意思決定システムによる非効率性や老舗にありがちな負の遺産のほうが問題視されています。
 東アジアの国々は広さ、人口、民族、言語、宗教、政治体制、経済力、産業構造と実に多様です。これらの国々が、「平和と友情に基いた共存」をめざすのは大変なことですが、違っているからこそ意義があるのではないか、という気もします。
 現実的な問題としては、アセアン諸国との FTA(自由貿易協定)の実現が中国のほうが日本より 2年早いことです。日本が農業問題でごたごたしているうちに中国にさっさとやられてしまいました。先週、中国の広西チワン族自治区で第1回中国・アセアンビジネス投資サミットが開幕しました。アセアン諸国ではビジネスのほとんどを華人が握っていることもあり、また大陸側では中国と国境を接しており、歴史的にも関係が深いだけに、急ピッチで「互恵協力の強化、共同繁栄の促進」は進むものと思います。日本の安全保障は何も米国依存だけではなく、戦後から貿易、投資、観光の促進に日本が力を入れてアセアン諸国を味方につけてきたという部分もあります。アセアン諸国は北東アジアの国々、日中韓のリーダーシップが東アジアの協力体制には必要だと主張していますが、日本にとっては政治的にわだかまりを持つ中国と韓国だけに今後、この難問をどう解決するかが、日本の未来を決めるような気がしてなりません。
河口容子
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