[079]アジアの憂鬱

不穏な空気がアジア中にたちこめています。戦争は終結してもほとんど毎日テロが起こるイラク。自衛隊が派遣されたことで一挙に茶の間もイラクに近づきました。戦中世代派の母など少女時代の恐怖がよみがえってきたと言います。
そしてパレスチナのイスラム原理組織のリーダー、ヤシン師のイスラエルによる殺害。これも和平は遠のき報復がエンドレスに続きそうです。一方、台湾の総統選挙の大荒れ。韓国の大統領弾劾。困った隣人の北朝鮮。アジアの時代といわれますが、事件も東から西までまさに「アジアの時代」。
 私自身はキーワードはふたつだと思っています。東南アジアから西については「イスラム教」がキーワードです。インドネシアの大統領選が間近ですが、ここは世界一のイスラム教徒をかかえています。もともと「米国の傀儡」とまで陰口を叩かれるほどの親米国家です。イスラム色が強くなれば世界に与えるインパクトは大。もちろん、ほとんどのイスラム教徒は穏健ですが、あのバリ島の爆弾テロを起こしたジェマー・イスラミアという過激派だっています。そしてフィリピンの安定も必要です。人口の85%はカトリックの国ですが、モロ・イスラム解放戦線(MILF)なる過激派組織が存在します。
 冷戦構造が終結し、その後は地域紛争の時代と予測されていましたが、イスラム教徒どうしは団結心が強く、地域も国境も越えてしまいます。ご存知のようにアルカイダだって多国籍組織です。


 そして北東アジアにおけるキーワードは「中国」です。元の切り上げが論議されていますが、現在のレートを放置すればバブルが崩壊、切り上げれば輸出産業は利益が減り、あるいは外資の撤退がおこり、失業が増えるといいます。中国の失業率は今でも高く、また貧困層も日本では想像もつかないほどの数です。台湾や香港は中国の出方ひとつだし、中国は北朝鮮という外交カードも握っています。日本にとっても中国は重要な生産地であり、市場でもあります。
 日本もどうやら景気を持ちなおしたのは大企業だけで、それもリストラを含めた経費の削減が功を奏しているようです。日本の企業数のほとんどである中小企業については 7割が赤字と聞きます。若年層の失業者も多い。先日来から伸びているという消費についても年金生活者が預金を取り崩して使っているという説もあり、いずれにせよ、健全な社会構造にはなっていない気がします。その実、中年になっても自活できない子をかかえる親、リストラにあった子どもの家族の生活を支援している年金生活者の親の話などもよく見聞きします。
 鳥インフルエンザも含めて一気に噴出した「アジアの憂鬱」。それだけ国際的に連鎖をおこす時代になったともいえます。日本では自殺者の多さが問題視されていますが、急成長をとげた中国でも自殺者は多いと聞きました。また、カンボジアのように戦争の後遺症としての精神疾患の多さが問題となっている国もあります。そういう意味ではイラクも心配です。これらアジアの騒動と一線を画しているのがもうひとつの大国インドです。英語という武器にソフトウェア産業が盛んなこの国は「世界のオフィス」とも呼ばれ、経済学の長老P・F・ドラッカーは中国以上にインドを注目しているのが何とも不気味です。
河口容子
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