[046]2010年流れは変わるか

 先日、マレーシアの通産大臣による「マレーシアでのビジネス機会」というセミナーに行って来ました。場所は帝国テル、梅雨明けしたとたんにやって来た猛暑の中、何と630人がつめかけ、その人数にまずは圧倒されました。この数は昨年10月同じホテルで開催された香港貿易発展局ピーター・ウー理事長による「対中ビジネスのパートナーとしての香港」というセミナーの来場者数を80人ほど上回ります。日本人にとってなじみの深さから言ってもマレーシアより香港でしょうし、中国というホットなテーマをかかえていたにも拘らず、マレーシアにこれだけの視線がそそがれるのはどうしてなのでしょうか。
 まずはスイスのIMD(国際経営開発研究所)が毎年発表する国際競争力のランキングで、人口 2000万人以上の国については米、豪、カナダについでマレーシアが堂々第4位です。日本は11位、次に中国本土が続き、実は日本は台湾やタイよりランキングは下です。今年からこの人口 2000万人でグループ分けされるようになりましたが 2000万人以下のグループではフィンランド、シンガポール、デンマーク、香港の順で、まさにアジアの時代です。
 あとで調べてわかったことですが、今年 10月に退陣するマハティール首相の後継者アブドュラ副首相の来日があり、そのあとJETROの主催するマレーシアに関するセミナーがあり、そしてこの合計 80人にもなる貿易投資ミッションが来日しているわけです。そして配布資料がきちんと作成されていること。この用意周到さがこの国のエネルギーを感じます。昨年、マレーシアで講演をしましたが、その時の資料作りといい、今年に入ってからアセアン諸国の集まった会議においてもマレーシア・チームの配布する資料はデザインも美々しくまさに「余裕」を感じさせました。


 当日は平沼経産相のスピーチもあり、共催者に某都市銀行がいるなど、政治力、人脈にも脱帽。このミッション・リーダーの通産大臣はラフィダ・アジズさんと言い1987年からこの要職にある明るいパワーにあふれた女性です。そして会場から出て来るどんな質問にも自分できちんと答えてくれます。この日のけっさくな質問は「中国人に比べマレーシア人の方が信用できると言いますが本当ですか」というものでした。彼女の答えは「国で比較するのはやめましょう。どの国にも良い人もいれば悪い人もいます。マレーシア人はだいたいフレンドリーであるとだけは言えます。なぜなら、寒い冬がないのと満員電車がないから。」と会場をわかせました。
 また、ゲスト・スピーカーである日本の経済人から「今は中国ブームですが、2010年上海万博を過ぎると投資はマレーシアへ行くでしょう。」との発言がありました。ほんとうに投資の流れがマレーシアへ行くかどうかは別として、SARS以降中国に対する熱も少し冷めたかのように思えます。現在の中国は異常に過小評価されている人民元と外国からの投資および外資系企業による雇用で繁栄しています。この外資の引き上げが起こったらという危機感は中国政府もかなり強く持っていると聞きます。私自身の実感からも中国は日本のような消費社会にはならないと思います。人口が多いから市場があるという理論は一部の商品には通用しますが、すべてのものにはあてはまるわけではないからです。
 この日、会場でマレーシアの貿易機関のアジアを担当しているマネージャーと立ち話をしました。彼女と会うのは 1年ぶりくらいです。マレーシアはいろいろな人種な融和して活性化するような政策を取っていますが、彼女もマレー人と中国人のハーフです。きびきびとした仕事のぶりの中にもアジア人らしい気配りがときどき顔をのぞかせます。昨年春のことです。毎日夜10時ごろまで残業している彼女ですが、それを切り上げてクアラルンプールのはずれの緑したたるカフェ・バーに連れていってくれたことをふと思い出しました。彼女の人並みはずれた集中力も美しい自然の癒しがあるからかも知れません。
河口容子
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