[271]年賀状は文化

 家庭では年々クリスマスのデコレーションが華やかになるのに比べ、伝統的なお正月風景はどんどん失われていきます。今はお正月でなくてもきれいな服装、おいしい食べ物などに取り囲まれているので「楽しみに待つ価値」が減ったのかも知れません。そんなライフスタイルの変化の中でインターネットの発達で存亡が危ないと一時思われた年賀状が意外と残っているのはなぜでしょうか。新聞によれば元旦に配達された年賀状は20億枚とか、平均すると国民の 1人 1人が20枚弱ずつの年賀状を受け取る勘定になります。
 2004年12月16日号「季節の挨拶」でも年賀状の良さについて触れましたが、年賀状は日本独特の文化になっていると思います。昔の年始まわり、つまり新年の挨拶にお宅を訪問するかわりに年賀状を使うようになったのが始まりで、お年玉つき年賀はがきが発売されたのは1949年ということですから戦後の長い平和が育んだ文化ともいえます。お年玉つき年賀はがきが通信手段としての本来の機能をはたすと同時に「くじ」になっていて、宝くじのように買った人が当たるのではなく、もらった人が当たるシステムも「福のプレゼント」として長続きしている理由だと思います。
 各国の季節の挨拶状(クリスマス、新年、旧正月など)と比べての大きな違いは「はがき」という形式です。はがきは差出人にとって費やす時間も費用もミニマムですみます。企業の広告を兼ねたものから家族写真入りのプライベートなものまではがき 1面に実にさまざまなメッセージをこめることが可能です。また、受取人にとってもはがきゆえに家族や職場で回覧することができるという利便性は封書であるカードに比べて非常にメリットがあります。サイズが定形であるためそのまま保存して住所録がわりにしている方も多いことでしょう。元旦に配達できるよう年末に出状したものを郵便局がプールしておいてくれるのもユニークなサービスといえます。
 年末に「あけましておめでとう」と書くのは嘘っぽくてただの虚礼にすぎないという方がいらっしゃいますが、これは差出人側からの一方的な発想にすぎず、受取人がお正月に挨拶を受けられるように事前に準備をするという配慮と考えればまったく不思議ではないと私は思います。
 私のような年齢になると年賀状だけのおつきあいの方がふえます。20数年前の上司、先輩、数回しかお会いしたことがない方など、お互いに几帳面な性格なのかえんえんと年賀状の交換が続いています。70代、80代になられている方も多くお元気で毎年私の事を思い出してくださることを大変ありがたく、懐かしく拝読しています。現役中は困るほど年賀状は多かったのに、リタイアすると年賀状も年々減って不安になる、とおっしゃった方がいらっしゃいます。目先の利益だけのつきあいが多い日本人のドライさを象徴していると言えますが、リタイア後の社会との係わり合いかたの鏡とも言えるのではないでしょうか。
  1月 2日にベトナムの政府機関の長官から年賀カードをいただきました。ベトナムの太宗は日本と同じ大乗仏教徒ですからクリスマスカードではありません。おそらく元旦ごろに着くよう緻密に計算して投函されたのでしょう。私はベトナムのかたがたには和紙風の紙に日本の伝統的なお正月モチーフが描がかれた年賀状を用意し、切手も和風のものを選んで送ってみたのですが、どのように思われたのか機会があれば聞いてみたい気がします。
河口容子
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