[115]気配り名人は詐欺をも防ぐ

10月から JETRO(日本貿易振興機構)のTTPP(貿易の B2Bサイト)ニュースレターにリスクマネジメントのコラムを連載させていただいております。11月号にはVISA取得詐欺というテーマを取り上げました。
 VISA取得詐欺というのは、インターネットを通じて日本の企業に商談を持ちかけ、日本へ出張するのでVISA取得書類の準備を手伝ってほしいというものです。ところが、VISA取得書類を手伝った後、連絡が取れなくなり、商談の日にも現れない、当該国の日本大使館に問い合わせたところ、VISAは発給されていることが確認され、どうやら最初からVISA取得を目的とした詐欺であったことが判明するというものです。これは、日本側の企業に金品での損失がないため、報告されていないケースも多々あろうかと思いますし、「何らかの事情で来られなかったのだろう。それにしてもいい加減な人だ。」くらいで済まされた場合は詐欺であることも気づいていないかも知れません。
 まず、途上国から日本へ来るには短期の観光や出張であっても入国VISAの取得は大変手間隙のかかるものであるということを認知しておくべきです。私が過去中国の方をお世話した際は、往復の航空券を購入していることの確認や、来日の目的や日程と宿泊先、企業訪問であればその企業が身元引受人となる旨の公式文書と提出しなければなりませんでした。まるで犯罪者扱いです。インドネシアの知人からはVISA取得の際に本人の預金通帳を提示する必要があると聞かされました。要はある程度貯金があり定収入があれば日本で不法就労する可能性は低いというチェックのためです。


 ただ、これは引っかかる方にも問題があります。インターネットを通じて簡単に交信できるからと言ってそもそも信用に足る相手なのかどうか。途上国から日本へ出張してくるということは経済格差から見て大変な負担になります。VISA取得書類の準備を依頼されるということは、他社とは取引がない、ということになります。自社と開始しようとしているビジネスがその出張コストを補うほどの規模があるのかどうか。あるいはそれほど資産があるのかどうか。私ならまずこの段階で疑います。
 ホテルの予約はしてあげましたか?空港への出迎え、あるいはホテルから会社までの出迎えの準備はしましたか?形式上のことだからこの通りに書類を準備してくれればあとは大丈夫、と言われたのかも知れませんが、日本にはおそらく初めて来る途上国の人がスムーズに空港からホテルに移動し、あなたの会社までやって来るなんて事はあり得ないでしょう。普通の気配りができる人ならやり取りの最中で「奇妙」に感じるはずです。
  JETROの海外事務所に紹介されたと嘘をつかれ、日本側の企業がすっかり信用した、というケースもありました。これは、私の常識としてはまずその JETROの海外事務所に紹介のお礼と経緯をたずねるメールを出します。この海外事務所というのはそんなに多くの人が訪れるとも思えない所でした。面会や問い合わせの記録が残っているはずです。この時点で嘘だとわかれば相手にしないだけです。
 詐欺にあった企業にはお気の毒ですが、自分たちの基本動作に抜けている点がないか、ビジネスの考え方や進め方にひとりよがりの点がないか、再点検したほうがいいと思います。
河口容子
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