[116]中国で暗躍する横領社員たち

 大手日系メーカーが中国本土の現地法人を従業員に乗っ取られ、香港法人の日本人所長も共謀した疑いがある、という事件が起きています。中国本土の法人を乗っ取られただけでなく、もうひとりの香港人エンジニアに顧客情報や製造に係わる機密情報まで持ち出され、日本のメーカーのライバル企業になってしまったというおまけつきです。本社の被害は約 2億円、それにこのライバル法人との競争で毎年損失を計上する可能性もあるといいます。信用した社員に任せきるという日本企業のリスクマネジメントの盲点と成長すさまじく「何でもあり」状態の中国ならではの事件とも言えます。
 香港の中小企業連合会によると本土で展開する 5万 5千社の企業のうち10%が社員に横領をされているということです。中国と香港を往来するプロの横領社員のブラックリストができたというニュースも聞きました。もともと香港は中小企業が多く、また転職社会でもあり、社員による横領の話はよく耳にしました。従い、同族での経営が多く、他人である社員には重要な仕事は任せません。たとえば、私の香港パートナーの会社でも商品サンプルはパートナー自身が倉庫に鍵をかけて保管しています。ボスが不在のときに社員がサンプルを持って商談などはできません。何とも非効率的な話なのです。私の会社に送金をする際は私がサインした請求書を送れば彼らの銀行が送金手続きをしてくれます。社員が銀行に送金依頼の用紙を記入するなんてこともありません。私自身はパートナーとの決済に関しては英語の帳簿を日本で保存していますのでいざとなれば私がその帳簿を彼らに開示してチェックができるシステムにしています。社員より外国人の私を信用しているわけで笑いを通り越して寒いものがあります。そんな香港人でも上記の被害にあっているわけですから、お人よし日本企業は注意に注意を重ねてもまだ足らないくらいです。


 日本にある外資系(欧米)企業では、退社が正式に決まったとたん席には戻らずにまっすぐ自宅に帰されるそうです。会社の機密事項を持ち出すかも知れないからという理由です。席やロッカーにある私物は同僚がより分けて宅配便で自宅へ送るそうです。私はこの話を初めて聞いたときはそんな会社には絶対勤めたくないと思いました。ところが取引先であった米国企業の日本法人でもある日突然日本人スタッフが意見の衝突で会社を辞めることになりました。そのスタッフが去る2週間後まで上司の日系米国人が土日もずっと夜遅くまでオフィスに来ているので「次のスタッフが来るまで忙しいのですか」とたずねたところ、そのスタッフが情報を盗んでいくかも知れないので見張りに来ているのだと真面目に答えられ、唖然としました。この部署はある商品の発注をコントロールしており、1年先くらいまでの商品情報や調達先のデータを持っています。これがライバル企業にでも流出したら大変というわけです。
 日本の大企業の本社では、社内にさまざまなチェック機能がはたらいており、個人レベルで大規模な横領をするのはむずかしいです。また終身雇用の時代には会社への忠誠心と引き換えに定年までそれなりの生活が保証され、共同体意識での相互監視が個人レベルの犯罪抑止力になっていたと思います。逆に組織ぐるみや権力者による犯罪は隠蔽されたきらいがあります。時代の変化とともに企業をめぐる犯罪も変ってくるような気がします。
河口容子
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