[177]バイラテラルからリージョナルへ

 2005年12月 1日号「南の島へのあこがれBIMP-EAGA 」でも書いたようにASEAN 諸国には国境を越えたいくつかの経済圏がありますが、最も日本人がイメージしやすいのが GMS(Greater Mekong Subregion – 拡大メコン地域)です。先日、この地域への投資セミナーと工芸品を中心とする産品を集めたメコン展が開催されました。
  GMSは1992年にカンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム、そして中国雲南省の経済プログラムとして発足しました。その後2005年に中国の広西省壮族自治区が加盟しています。もともと戦禍の絶えなかったメコン川流域ですが、政治外交的な交渉は避け、経済社会利益の共有のみを目的とし、越境インフラの整備と物流に関わる制度や政策の合意をめざしたもので、貧困をなくし、地域の平和な安定と経済発展のためアジア開発銀行が事務局となり2012年までの中期プランがすでに策定されています。
 この地域は 255万平方キロ(日本の 7倍)、人口は 3億人です。その背景には1980年代以降、東アジアでの企業内・完成品・部品垂直貿易の進展(特に家電、エレクトロニクス、自動車)、域内貿易比率の増大、生産ネットワークとサプライチェーンの形成(技術・デザイン・部品)があります。また、インド・中国・アセアンの物流と貿易の中心、中継点であることは言うまでもありません。まさに国際ビジネスもバイラテラル(二国間)からリージョナル(地域の)の時代へ入り、日本と中国や日本とベトナムといった二国間の視点ではなく地域という視点がこれからは必要です。
 もともと私は会社員の頃から「輸出」や「輸入」という言葉が嫌いでした。日本を中心に商品が出るか入るかという単純な視点しか持たないからです。日本にとらわれずに旬の産地や旬の市場とビジネスをしたいというのも起業の理由のひとつでした。また、日本以外を「外国」とひとくくりにし、日本と日本以外の国という分け方をするのも独りよがりの考え方のような気がします。
 ビジネスの国際化と言われて久しいものの、島国日本の多くの企業にとってはバイラテラルな進出が精一杯でリージョナルなビジネスを目指すのはまだ難しいと思います。また、ODAなどでこれらの地域に道路などを作っていますが、これらの建設、あるいは利用という形での恩恵をこうむるのは大手企業しかないでしょう。急速な国際化は日本企業の 2極分化を推し進める原因になっていると思うのは考えすぎでしょうか。
 セミナーでは昨年お世話になったベトナムの貿易機関の副長官が 3列ほど斜め前の席に座っておられるのを発見、たまたまた振り返った副長官と目があい会釈をし小さく手を振るとあちらも笑顔で手を振って応えてくださいました。メコン展では同機関の日本担当官、ハノイで訪問した現地商社の女性マネージャーなど懐かしい顔が勢ぞろいしました。中国 1極集中を避ける「中国プラス1」で日本からの投資がベトナムでは急増したとも聞きます。 GMS諸国の中では日本からの投資はどうしてもタイとベトナムに集中せざるを得ないでしょうが、その他の国々とどうやってバランスのとれた関係を保つのかが今後の課題です。
河口容子