「あなたが興味を持つと思って」とシンガポールのクライアントが現地で報道された記事をわざわざ送ってくれました。見れば、日本の年金離婚の特集記事でした。彼が1月に来日した際、道端のホームレスを見て「彼らには家族がいないの?」とたずねられ、「いますよ。たとえば、職を失うでしょ。そのうち家庭でもトラブルが起こるでしょう?日本では奥さんがサイフのひもを握ってるくらい強いから追い出されちゃうんです。」と冗談まじりに答えると彼は道路で飛び上がらんばかりに笑っていました。この記事を見て彼は「やっぱり、そうか」と思ったのかも知れません。
記事は「今年から大量のベビーブーマーたちが退職する。彼らのうちには家に戻ると離婚届が待っている人もいるかも知れない。」という文章から始まり、4月1日から離婚した妻にも夫の年金の半分が支給されるように法改正され、より多くの年配の妻たちが夫と別れて新生活をスタートさせるきっかけとなるだろうと書いてあります。
面白いくだりをピック・アップすると、この年代は25歳を越した未婚女性は「売れ残りのクリスマスケーキ」と呼ばれ、男性も結婚していないと一人前と見做されていなかった時代の人たちで、日本の家庭では過去は夫が一家を支配していたが、19世紀の末から、夫は外でお金を稼ぎ、子育てを含め家庭のことは一切妻に委ねられるようになった。妻の役割は子どもたちの母親であるだけでなく、夫の母親でもあるかのように夫は完全に妻に依存している、などなど。おまけに、どうせ女性のほうがはるかに長生きするのだから離婚なんかしなくても夫の遺産をもらえばいいではないか、とも書いてありました。
はたして、この記事はシンガポールの人たちにどのように映ったことやら。世間体に流されての結婚を可哀想と見るのか、夫の年金を半分もらって「はい、さようなら」する妻を打算的と見るのか、いずれにしてもあまり良い印象をもたれないような気がしてなりません。
確かに私の時代も「クリスマスケーキ」表現は生きていて、4大卒の女性の就職口はあまりありませんでした。腰掛としか思われないからです。同級生の中には「同じように大学を出て就職しても女性は良い仕事をさせてもらえず、つまらないから結婚した」と堂々と言う人間が何人もいます。私自身は「出すぎた杭は打たれない」と「規格外」を押し通すうちにとんでもない高給取りのサラリーマンになっていました。おかげで男性を見るときは「職業」「肩書き」「年収」など一切期待せず、「学歴」も「年齢」も「国籍」も気にしないので、それでは何に価値を見出したら良いのか、かえって非常に難しい問題となりました。同年代の女性たちが「年金離婚」をたくらむ頃、仕事が忙しくて徹夜もしなければならない私は幸福なのか不幸なのかよくわかりません。
河口容子