ベトナムの急成長ぶりについては、このエッセイでもたびたび触れていますが、一気に経済危機説が浮上しています。今月5月にはインフレ率が25%を越えたこと、株式市場が60%も下落したこと。IMF(国際通貨基金)の管理下に入るのではないか、など。世のエコノミストたちは中期的にはベトナムは成長すると口をそろえて言うものの、短期的にはタイの通貨危機の時のように世界に波及するという人もいれば、楽観視している人もいます。急速な経済成長期にインフレはつきものだし、証券市場の規模も小さい。為替相場も政府によってコントロールされている、というのがその理由です。これに付け加えるならば、先週号で例をあげたようにベトナムのメディアは徹底的に統制されており「不平、不満や不安をあおるような報道は出ない」「教育的な報道は繰り返される」という社会主義の良さもあります。
実はこの話題は韓国ではかなりシリアスなものとなっています。大韓貿易投資進行公社(KOTRA) はベトナムに進出した韓国企業が物価上昇による賃金上昇、原材料価格の高騰、資金調達難の「三重苦」に苦しんでいることを発表しました。進出数が多いので目立つということもありますが、最大の問題は自己資本比率の低さにあるようです。進出中小企業の多くはベトナムの金融会社から資金を調達しており、インフレ対策のため返済利率の上昇、新規投資の制限にあっているというものです。2008年 4月10日号「相次ぐ中国からの撤退」でも韓国企業の問題を取り上げましたが、韓国企業は借金をしまくってでも勇猛果敢に海外に出て行きます。逆に日本は尻込みしてチャンスを失うきらいがあります。
さて、本題のベトナムの経済危機説ですが、日本の8割程度の国土で8500万人の人口の国に日本、韓国、台湾、香港、シンガポール、中国本土までが競って投資をしている訳で良い場所や人材は奪い合いとなり、物価が上がらない訳がない。ホーチミンでは「いくらお金を積んでも良いオフィススペースは確保できない」「ビンズオン省では1週間で10倍土地が値上がりした」などの噂が流れました。そうすると実需ではなく投機マネーまでが暴れまくります。
インフレでベトナム国民はさぞ困っているかと言えば、そうではなく、バイクも新型になり、自動車もふえ、服装もファッショナブルになっています。ベトナムの政府機関のOBによれば、「ベトナムでは現金収入によるアルバイトがある」と言います。たとえば2007年12月 6日号「ベトナムで教える、ベトナムで学ぶ」の後半に出てくる年商10億円の手工芸品メーカーは工場でサンプルを作り、近隣の農家で下請けをしてもらい、回収して検品をするしくみになっています。工場は最低限の人員で生産調整がいくらでもでき、農家も副収入になるというわけです。また、2007年12月13日号「ハノイで味わう」でふれたナイトマーケットにしても、いわゆる縁日の拡大版のようなものですが、日暮れてから仕事帰りのようないでたちで店を開けている人もたくさん見受けられ、これも副業ではないかと思われました。
ベトナム人では男女同権の共働きのダブルインカムが普通です。専業主婦は 1割程度と聞きます。経済成長に伴い高所得どうしのカップルと低所得どうしのカップルでは世帯年収がぐっと開きます。また堅実な国民性から中国人のように一山当てるためにリスクを張るケースが少ない、従って貧富の差が比較的少ないと思っていたのですが、不動産関連での成金もふえ、最近アドバイスを依頼された企業は昨年末に設立、30代の女性が社長の小売店チェーンですが、資本金が 6億円以上あり、10ケ所に店舗スペースを持っています。ここでは欧米、日本のブランド商品を扱っており、インフレなどものともしない層が確実にふえている事を物語っています。
河口容子
【関連記事】
[294]ベトナム・メディアの面白さ
[287]ホーチミンで韓国人と仕事をする
[284]相次ぐ中国からの撤退
[267]ハノイで味わう
[266]ベトナムで教える、ベトナムで学ぶ