[042]インドネシアで味わう

  3週にわたり、インドネシアとブルネイの出張について書かせていただきましたが、読者の方から「文化の混ざりあうインドネシアではどんな食べ物を食べたのですか」とのご質問をいただきました。私があまり食べるものについて書かないのは旅行記ではないこと、好き嫌いが多いこと、消化器系が弱いので油こいものや甘いものが増え、疲労のたまりやすい海外出張では食べる量を日本にいるときの 6-7割におさえてしまう個人的な理由もあります。イスラム圏ではアルコールをすすめられることはありませんので体調維持には大助かりです。
 出された水を心配なく飲め、外食でお腹を壊すことがめったにない日本からインドネシアに行くとかなり生活が困難になります。水道の水は現地の人も飲んでおりません。市販されているミネラル・ウォーターか煮沸した水をさまして使うかのどちらかです。私は用心のため、歯磨きのすすぎもお湯で行い、最後はミネラル・ウォーターを使っています。どんな水を使っているかわからない生野菜サラダや氷も要注意です。とはいえ、一流ホテルやレストランではもちろんサラダもかき氷もアイスクリームも何の不安もないどころか、5ツ星ホテルの林立するジャカルタでは東京にもないようなすばらしいレストランが和食も含めたくさんあります。特に「和食好き」というのはインドネシア人の中でステータス・シンボルのようにも聞こえます。
 食べる前にこの国では水分補給がまず必要です。ホテルや車の中は冷房が効きすぎ、寒がりの私としては冷房は消して寝ることにしていますがそれでも喚気孔から吹き込む空気が冷たくて夜中に目が覚めることがしばしばあります。会社訪問時に工場に入ることがよくありますが、こちらは冷房などありません。もちろん戸外は熱帯です。この寒暖の差で冷房病になったこともありますし、水分不足になっていることに気づかないことがあります。だんだん頭が働かなくなり、水分を採ると急に体のすみずみまで蘇る気がするのは危険信号状態かも知れません。


 辛いものの苦手な私はインドネシアに来るとほっとします。ココナッツミルクやピーナッツ・ソース、ケチャップ・マニスといったやさしい味付けのものがたくさんあるからです。炒飯のナシ・ゴレンや焼きそばのミー・ゴレン、スパイスの効いたチキン・スープのソト・アヤム、ピーナッツ・ソースの温野菜サラダガドガドは定番料理です。また、焼き鳥のサテは身がしまっているのとソースがおいしく、鶏肉嫌いな私でも思わず注文してしまうほどです。インドネシア語で魚をイカンと言いますが、イカンなんとかという魚料理はメニューにたくさんあります。イカはチュミチュミと言いますがこれもいろいろな味付けのものがあります。厚揚げのような豆腐はその名もタフです。また、炒め野菜としてよく登場するのが濃い緑色をした菜っ葉のカンクンです。おやつにはバナナの天ぷらピサン・ゴレンがありますが、日本のバナナよりは少しすっぱい感じです。という訳でほとんどの日本人は抵抗なくインドネシア料理を楽しめると思います。何人かで食事をする時は中華料理のように適当に料理を頼んで自分のお皿に取り分けて食べますが、ある時、若い夫婦が山のように料理を注文してくれたので、心配したところ、どうせ持って帰るのだから気にしなくていい、と彼らの次の食事の分まで注文していました。そんな合理性もインドネシアにはあります。
 ジャカルタに行くと毎回寄るお店があります。あるホテルの中にあるジャカルタ一と言われるイタリアン・レストランです。世界中を歩いておられるかなりグルメの日本人を何度かお連れしていますが、最後には必ずなぜこんなお店が日本にないのだろう、という共通の疑問にたどりつきます。外国人か華人のお金持ちが客層ですが、日本のお値段からすると破格値です。現地の友人によれば別のホテルのイタリアンがおいしいと言う米国人もあるらしく次回はそちらをチャレンジする楽しみができました。
 厳しい気候と治安もあまり良くないインドネシアで、仕事の合間に、車に載って行って、やっとありつける安全なごちそう。楽しい語らいがあれば、緊張感も一気にほぐれ至福のひとときとなります。
河口容子
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