[301]ジャパン・オフィス・サービス

 私の会社のユニークな仕事として「ジャパン・オフィス・サービス」というものがあります。日本企業と取引をしたい海外企業の日本代表事務所の仕事をそっくりやってさしあげます、というものです。
 そもそもは2002年10月31日「気がつけば華人社会の住人」で書いたように香港のビジネス・パートナーに端を発します。彼らは「日本の商品を香港や中国で販売し、逆に日本へも輸出をしたいので日本に会社を作りたいがどう思うか」と聞かれたのです。それまでは日本語の話せる香港人ビジネスマンを都度都度日本に商談に派遣していました。この香港人ビジネスマンとて自分の会社を持っている人ですから簡単に言いなりにはならないので歯がゆくなったのと香港人と直接取引するのには抵抗があるという日本企業もあったからです。
 私は日本でのオフィス賃貸料の高さ、人件費の高さ、また英語でビジネスができ輸出入の経験がある人が香港企業のワンマンオフィスに来てくれるかどうかも問題、それに日本の法律や税制も知らずしてどうやって管理するのか、と聞きました。それならば、事業が安定するまでは私がジャパン・オフィスとしての仕事を引き受けましょう。もちろん、専任で人が必要になればオフィスを借り、人を雇うことも責任を持ってお手伝いいたしますというおせっかいから始まった苦肉の策が華人の合理性にマッチしたともいえます。
 貿易にしても新規プロジェクトにしても、よほど大型のビジネスでない限り毎日毎日忙しいわけではありません。人を専属で雇ってしまったらその人が遊んでいても賃金を払っていかねばなりません。おまけにボスは海外にいる外国人となればろくな事はおきないでしょう。
 私のジャパン・オフィスは他にもメリットがあります。日本の株式会社ですから国内で一応信用はあります。海外、特にアジアの企業と直接取引するのに不安を持っていたり、貿易に不慣れな日本企業であったりしても私の会社と国内取引をすれば良いのです。おまけに輸出入手続きはもちろんのこと、リサーチ、営業、契約、会計、税務と会社として一通りのことはすべて英語で一人でこなせますのでコストと時間の圧縮が簡単です。1ケ月程度の短期間でもまったく気にしませんし、稼動時間だけ支払っていただくシステムも持っています。実態は業務委託契約と何ら変わりはありませんが、外国企業にとっても「ジャパン・オフィス」が手軽に持てるので期間限定のプロジェクトや少量の取引が不定的に続く場合は威力を発揮します。
 次に出てきたのは2006年 2月16日号「アジアの道義心」で触れたシンガポールのリサーチ・コンサルタント会社です。複数の会社のジャパン・オフィスを引き受けて問題はおこりませんか?とよく日本人に聞かれたことがありますが、すべて契約で線引きをしておきます。機密保持事項もありますし、この企業の場合、「中国、香港案件は香港のビジネス・パートナーを優先」というルールも決めましたが、私の会社がシンガポール政府から直接お仕事をいただくようになってしまい競合する部分もかなり出てきましたので心苦しく、ジャパン・オフィス・サービスについては契約を解除させてもらいました。
 シンガポール政府からは 9月、10月と 1件ずつシンガポールからのミッションの受け入れプロジェクトをいただきました。ただでさえオファーの雪崩と必死に戦っているので「もういらない」とばかりに「他に頼む所はないのですか」とたずねたところ「御社にはジャパン・オフィス・サービスがあるではないですか?商談が進んだらその後の面倒も見てもらえるでしょう?そこがいいのです。」このふたつのミッションで来日するシンガポール企業は20社を超えます。もちろん日本企業との商談が進むのを祈ってはいますが、ジャパン・オフィス・マネジャーの肩書きばかりふえるのもたまりません。
河口容子
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