[291]続 禍転じて

 四川大地震に際し、日本の国際緊急救援隊は山崩れや余震の危険があるとして撤退せざるを得ず、生存者の救出には至りませんでした。ある中国のメディアは隊員の「自分自身は無力感と悲しさでいっぱいであり、仲間は精神的にまいり離職を決めた」というコメントを紹介しました。それに対し、中国の読者から熱い感謝や感動の言葉が寄せられ、中には「これだけみんなが勇敢で素晴らしいと思っているのに辞表は理性のない行動」というものもありました。
 私自身もこの離職には不満です。「年齢的にも体力、精神力の限界」「他の仕事をしたい」というのならうなずけます。その隊員の方はおそらく誇りと自信、高い目標を持って活動にあたったに違いありません。しかし、十分な情報もないままに現地入りし、たまたま生存者を見つけられなかったのは宿命であり、残念であっても、無力感を感じて辞めるほどの事ではない。自然災害の下では人間の力など本当に取るに足らないものです。悲しくても虚しくても自分の持つ力を十分生かせたのなら立派な仕事ぶりであり、それを見た中国国民の84%が日本に好感度を持つようになったのです。これは誰もが予想もしなかった大きな成果でしょう。日の丸を背負う以上、他国の救援隊には負けたくないという気持ちも理解できますし、帰国すれば成果をあれこれ批評する人間が周囲にいるのかも知れませんが、これだけ多くの中国国民の心を引き寄せたのはゆるぎのない事実です。
 救援隊に代わり、医療チームが現地入りしましたが、活動場所をめぐって難航、大切な時間を無駄にしてしまいました。ロシアの医療チームはもともと非常事態省を持つだけに 1日 300人の治療が可能な移動病院をチャーター機で送りこみました。チームが到着した時点では活動場所は双方協議の上決まっていたそうです。ドイツやイタリアは移動病院を医薬品とともにそのまま委譲するうです。確かに医師、看護師の調達が現地で可能であるなら、そのほうが被災者にとっても意思の疎通がスムーズなはずです。日本の更なる国際化にはまだまだ学ぶべき点がある気がしました。
 核施設の安全性への懸念をいち早く指摘したのは欧米各国です。彼らは大所高所から物を見るのに長けています。復興援助までも視野に入れているに違いありません。日本人はせっかちで「目先の事にばかり気を取られ」結果「その場しのぎ」を連発してしまいます。これを線でつなぐととてもおかしな事になるのが、ガソリン税であったり、年金問題であったり、後期高齢者医療制度にたどりつくのではないでしょうか。
 四川では病院スタッフが過労死したそうですが、日本では過労を原因に自殺した人が81人いたというニュースが流れました。本当に過労すれば死んでしまうのだから、何も早まって自ら死ぬことはないでしょう。人間万事塞翁が馬で、辛く嫌な事があってもいずれ幸に変わるかも知れないのです。それを信じて少しでも前向きに努力を続けるのが美しい人生なのではないでしょうか。中国では地震発生後 200時間くらいたっても 100歳に近い高齢者が救助されています。この気の長さ、メンタルの強さこそ、今日本人に必要なものです。
河口容子
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