[097]反日感情

 重慶でのサッカーアジア杯での日本代表やサポーターに対する中国の観客の言動は目に余るものがありました。日本国歌の演奏には起立しない、ブーイングを行なう、日本のサポーターにはペットボトルやごみを投げつけるという暴挙です。日本選手団のバスが中国の観衆に取り囲まれたり、日本のサポーターを帰りに安全のため一事避難させただの、日本戦については現地では実況中継しないなどという場外のニュースも連日飛び込んできました。

 知人の在日中国人 3世(彼は日本で生まれ育っていますが、日本人の血は一滴も入っていません。奥さんも上海人です。)に、「どこのチームを応援するかは勝手だけれども、あの態度はアンフェアでスポーツ精神に反する」と私は言いました。彼いわく「重慶は内陸部で沿岸部ほど国際化していない。中国全体に言えるけれども教育そのものが問題。中国人のマナーは悪いと思う。」と。

 追って中国共産党の青年向け機関紙に「観戦マナーを改めよ、ホスト国として恥。」という記事が出たものの、重慶は日中戦争時代に旧日本軍の爆撃を激しく受けた地だけあって反日感情の強い人が多いのでしょう。先週書いた日本人の感情的なるものとまた違い、これは心の奥底まで滲み込んだ恨みの教育がなされているような気がしてなりませんでした。

 かつて反日感情が非常に強いとされた韓国との関係にあっても、2年前のワールドカップの共催以来、雪解けムードとなり、現在では韓流ブームとさえなりました。ビジネスにおいては中国関連のニュースがあふれる一方で、重慶の5万5千人のスタジアムのほとんどが反日に揺れる光景を見てショックを受けた人も多いのではないかと思います。

 私の香港のビジネスパートナーは香港と中国の 4都市で日本製品のセレクトショップを展開していますが、屋号は日本的な名称を使っていません。日本的な屋号にすれば反感を持たれる危険性があるからです。日本や日本人は嫌いなのかも知れませんが、幸い日本製品の不買運動にまではつながりません。

 以前、広州に出張したとき、私が日本人とわかると如実に嫌な顔をされた事もありましたが、逆にとても親切にしてくれた人もいました。どこの国でもいろいろな人がいるものです。ひとり、広州から列車で香港へ出発する私にビジネスパートナーは「人民元を持っていないでしょう?持っていきなさい。」と札入れから数千円分の人民元をそっと渡してくれました。私は道中危険なことがあるのだな、と覚悟しました。インドネシアでは金銭決着用のお金をポケットに分散して持ち歩いているからです。私の危惧を察したビジネスパートナーは「何てことないよ。これで飲み物でも買えば、ってことだよ。」と笑いました。

 車中に日本人のビジネスマンがいました。荷物を半分通路にはみ出して置いているのを見るやいなや、女性の車掌は持っていた紙をはさむホルダーで思いっきりその荷物を叩きました。彼が日本人とわかっていたからです。疲れていたのかも知れませんが、そのビジネスマンはいかにも横柄そうな中年にさしかかった男性でした。その後、この車掌は乗客にミネラルウォーターの入った紙コップを配り、しばらくして回収に来ました。私は窓側に座っていたので取りにくかろうと彼女に手渡すと消え入りそうな声で「サンキュー」と言って受け取りました。決してマナーを知らないわけではない、接する側の態度や精神は必ず通じる、とこの光景を今でも忘れません。

河口容子