[090]教育ビジネス市場としての中国

 日本にとって、中国はまず生産拠点、安い労働力を利用する場所でした。そして中国にも中産階級が台頭し始めると次に消費市場として考えられるようになりました。次にクローズ・アップされているのが教育市場です。知人の上海パートナーである調査会社が中国の教育市場に関するセミナーを東京で開きました。世界中の著名企業を数え切れないほどクライアントに持つ調査会社です。
 中国では、文革のあおりで勉強をすることができなかった世代50代以上はすでに第一線から退いており収入も少ない層です。彼らの子どもたちである20代後半から40代前半は親に教育にお金をかけてもらい社会でリーダーとなっています。この上海の調査会社の社長もまだ32歳です。また、一人っ子政策になってから生まれた子どもたちが25-6歳になっており、それ以降の子どもたちは両親とその祖父母という 6つのポケットを持つ恵まれた子どもたちです。
 中国は実力社会です。少し前ならカンや度胸、根性だけ立身出世ができても今は完全に学歴や資格社会になっています。歴史的に失業率の高い国だけに子どもたちにできるだけいい教育をつけさせたい、というのが親心のようです。国家としても高等教育への進学率を上げたい、識字率を改善したいという方策を出しています。小学校から大学まで全国に50万校あっても巨大な人口をとてもカバーできるものではありません。 5年前に私立大学が解禁となり、昨年は外資との合弁の学校設立が許可されるようになり、大都市ではたちまち語学学校や予備校まで現れるようになりました。科挙の時代から、元祖「お受験」国家だけのことはあります。


 これを人口で見てみると、0歳から19歳までが約4億人、そして20歳から30歳までが約 2億人です。幼児教育から社会人教育までがこのターゲットとすると何と 6億人市場です。どんどん発展する経済に比べ、教育の質向上や教師の養成が追いついていません。これでは外資の教育産業がどんどん進出し、そのうち中国に行けば世界中の教育が受けられることになるかも知れません。
 私の関心があるのは技術教育です。中国の工場労働者の約 6割は低レベルの技術しか持っていません。中級レベル以上の技術者はデジタル・コントロールの分野では60万人、プログラミングでは42万人、金型40万人、デザイナーを含むアパレル関連は20万人、自動車整備工にいたっては計り知れないほどの需要があるといいます。これは少子化で先行き不安な日本の教育産業やリストラや倒産で技術を発揮できなくなった日本の技術者が教える場として進出の余地があるのではないかと思います。
 現在先進国全体の就業者数は約 6億人、中国では 9億人分の仕事が必要といいます。何でも桁違いにスケールが大きく、そして猛スピードで駆け上がる中国です。いざとなったら数の論理には勝てません。日本が質や知恵、品性といったものをいかに高めていくかが今後の課題だと思います。
河口容子