[091]幸福な人生であるために

 先日、米国の知人 D氏からメールをもらいました。彼はまだ52-3才ですが、山岳地帯移り住み、担当業務をかなり減らしてもらい、徐々にハッピイ・リタイアメントの備えをしたいという知らせです。現職は米国北西部に本社を置く上場企業の管理部門担当の副社長で、前職は米国のグローバル企業で社内弁護士をしていました。 D氏は手ごわい取引相手でもありましたが、英語で契約の交渉をする、関税法の話をする、あるいは知的ビジネスパーソンの英語の恩師みたいな存在でもあります。また、原宿や鎌倉に連れて行ってあげたり、米国ではオフィスやお気に入りのレストランに行ってもらったりと楽しい思い出がたくさんあります。完全なる引退ではありませんが、日本ではビジネス社会の地位があればあるほどポストにしがみつく傾向があるのに比べ、一種の潔さをしみじみと感じました。
 振り返れば、何年か前、上記グローバル企業の役員たちのうちのひとり N氏も50代半ばを目前にハワイにコンドミニアムを1棟(建物まるごとという意味です)購入してリタイア、もうひとりのW氏も同年代でハワイのコーヒー農園を買い農園主として新しい人生をスタートしたのを思い出しました。彼らはリストラされたわけではありません。また、生まれついての富豪でもありません。 N氏など農業地帯のハイスクールの分校を出、陸軍主計学校から公認会計士の資格を取得しています。ベトナム戦争にも行きました。W氏とは戦友です。
  N氏と W氏については日本にも駐在をしていたので暮らしぶりをよく知っていますが、それぞれ自分のライフ・スタイルをきちんと守っていました。 N氏は朝 5時に起きてジョギングをしてから 8時ごろ出社し、残業も遅くまで元気にします。 W氏も朝は早いものの、家族重視の生活で夜一切外食はしませんでした。もちろん接待も受けません。見ていて感じたのは個々の幸福観とライフ・プランをしっかりと持ち、毎日毎日きちんと積み上げていたのだろうということです。


 それに比べ、日本人は常に目先のことや周囲の目や声にとらわれて生きているような気がしてなりません。自分が何をしたいのかわからなかったり、無意味な転職を繰り返す若者、リストラにただおびえている中年、定年目前にして老後の蓄えがないことに気づき大慌ての人もいます。そして定年と同時にぬれ落ち葉となったり、あわててライフ・スタイル雑誌を読んだりという按配です。
 私自身は総合商社に入社したときはすでに「商社冬の時代」と言われていましたので、クビになったらどうするか、会社に万が一のことがあったらどうするか、いつも心のどこかで考えながら会社員生活を送ってきました。会社にしがみつかず、誰にも媚びることなく自分の栄養になることは何でもチャレンジするという姿勢で充実した生活を送ることができたと思っています。また、いとも自然に現在のライフ・スタイルへ移行できました。
 たまには自分の人生をゆっくり大きく眺める、何が自分にとって幸福なのかを問いかける時間を持つことが必要なのではないでしょうか。これは目先の問題を解決したり、世間の顔色を伺うより結構むずかしいものです。
最近、取引先のキャラクターの絵本を出版するお手伝いをさせていただきました。「なまけたろうの絵本 おかえり。」というタイトルで白夜書房から2004年 6月25日に発売されます。子どもも読めますが、頑張りすぎている大人のために幸福について考えていただく絵本です。私自身も絵本づくりに熱中していた幼稚園時代の幸福な時間を何十年もの年を経て取り戻すことができました。
河口容子