[092]五つの「あ」

 中国ビジネスの 5ケ条が「あせらず」「あわてず」「あきらめず」「あてにせず」「あなどらず」というのだそうです。これは中国のみならず、異文化コミュニケーションと必要とする国際ビジネスすべてにあてはまると私は思います。
日本人は「バスに乗り遅れるな」とばかり、あせって、あわてて海外に飛び出して行きます。いわばアウェイ戦ですから、相手を十分に調査、研究して体調も整えてから出ていかなれければ良い試合ができないのと同じで、輸出にせよ輸入にせよ、客観的な情報収集や自分の目で見ての確認が必要です。また、国内ビジネスとは違ったリスクも抱えることになるので、それに見合った自社の体力なり人材を備えておくことも大切です。国内の市場の低迷で市場を海外に求めざるを得ないという企業もあるでしょうが、海外に出れば他国の競争相手もいるわけで自社の国際競争力を見極めなければなりません。コストダウンや新規商材探しのための輸入にしても、初回の輸入からいきなり成功することもまずないと思います。準備や計画なくして始めるのは危険です。


 「あきらめず」というのは「あせらず」、「あわてずに」に関連していますが相手は異文化に暮らす人、異なった商習慣を持つ人たちです。特にお互いが母国語でない場合、ささいな事でもうまく意志の疎通ができずはがゆい思いをすることもあります。それを単に英語力のせいにしたり、「やっぱり外国人はダメだ」と決めつける方もありますが、まず自分が客観的に状況を説明して、明確な意思表示をしているかどうか反省する必要があります。すべて日本流で勝手に押し通して勝手にあきらめている人をたくさん見かけます。
 国際ビジネスはリスク要因がたくさんあります。ですから他のビジネスとのバランスを取りながらリスクヘッジをしていく必要があります。まず、経済というのはどこの国でも好不況の波がありますし、国によっては政情が不安定だったり、天災地変が多発したりします。また、 M&Aがいとも簡単に行なわれ経営陣が入れ替わってしまう国もあります。為替のリスクもあります。こういう複雑な要因をかいくぐって良いビジネスが出来たときは広い地球の中で得た縁の不思議さをつくづく感じます。日本人は一度親しくなると互いにもたれ合う習性がありますが、お互いにフェアな態度で、ひとつひとつの取引を慎重に行い、かつ長く大きな目で見る精神が必要だと思います。
 最後の「あなどらず」、というのは特に途上国とビジネスをする際に重要なことです。日本人は「世界で二番目の経済大国」「先進技術大国」であるといったプライドを持つ人が多いと思います。誇りそのものは悪いことではありませんが、ややもすると相手を見下したり、自分たちのやり方を「先進的」ないしは「正しい」として押し付ける傾向にあります。国というのはそれぞれの文化なり、社会構造を持っています。途上国のほうが合理的な市場や制度、行動パターンを持っている場合だってたくさんあります。相手を理解すること、また相手に理解してもらうこと、私自身は100%理解しあえないからこそ生まれる配慮や忍耐というのがとても好きです。
河口容子
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