[251]外国人と仕事をする

 横綱朝青龍関が仮病疑惑で二場所出場停止の処分を受けました。けがで巡業に出られないとしながらも母国モンゴルでサッカーに興じていたというものです。これは単に一個人の世界の問題でなく、国際化や外国人と仕事をする際に出てくる問題の象徴であるように思えてなりませんでした。
 まず、ご本人にとって日本人が怒るほど罪の意識はなかったと思います。自分は横綱というトップの座におり、日本人力士が育っていないせいかダントツの強さを誇っています。先場所は優勝もし、横綱として、また部屋や親方の面子も保った、責任は果たしたので巡業をさぼるくらいどこが悪いというのが普通の外国人の感覚でしょう。
 けがについては診断書を出したということですので、どの程度かは親方なり部屋の人間はわかるはずで、お里帰りのためのひょっとしたら部屋ぐるみの仮病工作で、あのコミカルなサッカーシーンが津々浦々まで放映されさえしなかったらこんな処分にはならなかったかも知れないなどと勘ぐってしまいます。
 朝青龍関を擁護するつもりはありませんが、相撲の世界の特性、巡業の意味をきちんとご本人に説明、指導してきたのか?入門する日本人が減っているからといって安易に外国人に頼ってしまっているのではないか、外国人だから些細な事はしかたない、強ければそれで十分と甘やかしてしまったのではないか?という素朴な疑問も持ちます。
 私の家は祖父の代から貿易商でしたので子どもの頃から外国人と接しています。大学のときも外国人の先生が非常に多く、会社員のときも職場に外国人がいる事は珍しくありませんでした。よって外国人と折り合いをつけていくことは私の強みになり、独立した現在も海外のクライアントのほうが多いくらいです。ところが外国人と仕事をしたことのない日本人にとっては当然どこが違うのかよくわかりません。従って、一方的に日本的な考え方を押し付けたり、勝手に理解しているものと決めこみ、日本の杓子定規で善悪を判定します。そこが外国人にフラストレーションが起きる原因です。逆にセンチメンタルな部分で「外国に来てよく頑張っている」とか「もの珍しい人気者」として甘やかすくせをつけてしまう日本人がいることも確かです。
 上記の事は男女雇用機会均等法ができたとき、女性の総合職にもまったく同じ現象がおきました。「女性」という理由で差別を受けたり、男性社会のルールを教わってもいないのにある日いきなりけしからんと叱られたり、逆にお姫様扱いを受けることもあります。男性とまったく同じように行動をしていれば問題がないかといえばそうではなく、女性的な華やかさや配慮、忍耐なども時として要求されるわけです。つまり男性と同等の能力を持った上に異質なプラスアルファがあってやっと同等に評価してもらえるのです。これと同じで「日本人としても恥じない横綱プラス立派なモンゴル人としての朝青龍」を皆は一方的に期待しすぎていたような気もします。
 日本のさらなる国際化と少子高齢化により、外国人や女性が職場にふえるのは避けられないことです。私自身が外国人やまったく異業種の方と仕事をする場合気をつけていることは、まず「その仕事におけるそれぞれの役割をきちんと理解すること」です。次に「ほうれんそう(報告、連絡、相談)の習慣をお互いに身につける」ことです。特に異質な文化の人はここで連絡をしないと誰がどう困るのかわからない場合もあり、都度説明をします。そして「長所を存分に生かしあう」ことです。異質だけに素晴らしい発想や能力を見出すこともあり、それは素直にほめて活用させていただくことです。また人はふだんほめられ、尊敬してくれる人の苦言提言は素直に受け入れるもので意思の疎通がさらにスムーズになります。
河口容子
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[231]先入観という魔物

 「病院に交通事故にあった患者が運ばれて来ました。外科医は患者の顔を見るなり驚いて、これは私の息子です、と言いました。外科医は患者の父親ではありません。さて、外科医と患者の関係はどうなっているのでしょう。」というクイズがあります。20年ほど前にこう聞かれて私はすぐ答えがわかりましたが、他の人は実にいろいろな回答をひねり出し笑わせてくれました。正解は簡単で「母親」なのです。つまり、外科医イコール男性という先入観が強いかどうかをチェックするテストで、外科医分野に女性進出が進んでいる社会では回答率が高くなるはずです。
 似たような経験をした事があります。会社員の頃、ある化粧品メーカーの副社長を商談のため訪問しました。商談のアレンジは私の会社のOBの方がすべて調えてくださったので当日お目にかかると「女性の方とわかっていたら当社の製品をセットでお土産に用意しておいたのに。総合商社の方だからてっきり男性だと思っていました。」自分でアポイントを取った場合でも「お電話くださったのはご本人だったのですか」とびっくりされることもありました。相手はてっきり女性のアシスタントにアポを取らせ男性が出向いて来ると勝手に想像していたのでしょう。男性の部下と一緒に初対面のお客様にご挨拶をするとたいていはまず男性のほうに先に挨拶をされようとします。部下があわてて「こちらが上司の河口です。」と言うとお客様は動揺の色を隠せなくなります。最初はいちいち不快だったのですが、そのうち驚かすのが面白くなりました。人々の先入観をうち砕くという使命感すら持ったほどです。
 私のことを「若い、きれい、かわいい、やさしい、ファッショナブル、天真爛漫」で想像と違ったとおっしゃる方が昔からよくいらっしゃいます。この程度でそう言っていただけるとは、半分はお世辞で残り半分は総合商社の総合職あるいは起業して社長の女性のイメージがどんなにひどいものかの表れだとも言えます。女性の比率が少ない職業のため、商社マンや中高年男性の社長というありふれたイメージにスカートをはかせて想像しているだけかも知れません。
 私の会社にもセールスの電話がたくさんかかってきます。「社長はいらっしゃいますか?」「私ですが。」いきなりがちゃんと電話を切る人、「何時にお帰りですか?」ととんちんかんな応答をされることもあります。前者については商品先物取引など女性経営者があまり好まない傾向にあるもの、あるいは事務員が社長のふりをしてからかっていると勝手に思いこんで電話を切るのでしょう。後者については電話に出た女性が社長である訳がないという先入観から女性が何か答えると「外出しています。」と聞こえるらしく「何時にお帰りですか」と自動的に聞いてしまうようです。まさに先入観は魔物です。
 外国との取引で一度失敗しただけなのに「○○国は良くない国だ」「○○の国民性は悪い」と決めつける人がよくいます。どの国も長所短所があり、良い人も悪い人もいる訳でこれは悲しいことです。また、こういう人に限って聞きかじりの情報だけで判断をしようとします。先入観、それは歴史や文化的背景や確率論に裏付けられたものなのかも知れませんが、先入観にとらわれてチャンスを逸することもあり得ます。本質、本物を見極める能力のある人は先入観に踊らされず、きちんと自分の尺度を構築して持っている人なのでしょう。
河口容子