[172]インドネシア閣僚そろい踏み

 先日、「インドネシア経済・投資セミナー」が経団連会館で開催されました。講演はユスフ・カラ副大統領をはじめ、ブディオノ経済担当調整大臣、イドリス工業大臣、パンゲストゥ商業大臣、ルトフィ投資調整庁長官という超豪華メンバーで、それも一般ビジネスマンに公開されたイベントであるという点もいかに同国が日本からの投資促進に力を入れているかがわかります。
 インドネシアは世界有数の資源国で、マラッカ海峡を渡らなくてすむ安全な燃料の供給国であり、その他産品の輸出国として、日本の大切な貿易パートナーです。また、戦後の賠償から始まり、現地への投資も長い歴史を持っています。ところが、アジア通貨危機と時を同じくして中国の台頭があり、日本からの投資は中国へ向いてしまいました。最近、チャイナ・リスクをおそれてまたアセアン諸国への回帰が見られますが、さまざまな国が海外投資の優遇策を打ち出しており、特にベトナム、タイ、そしてアセアン外ですがインドへ投資は奪われており、インドネシアの出遅れ感はいなめません。
 ユドヨノ政権誕生後、汚職の徹底排除や貧困層への援助などクリーンで安定した国家建設をめざしていますが、日本の 5倍の国土(18,110の島からなる島嶼国家ですのであまり広いというイメージはないかも知れません)を持ち、人口は 2億人以上という大国の安定はアセアン諸国の中にあっても、日本にとっても経済と安全保障上大切なことです。また、その人口の 9割近くがイスラム教徒で、世界一のイスラム教国家でもあります。
 過去に 2年立て続けにインドネシアの貿易機関を訪問し、一緒に仕事をしたことがありましたが、 1年目と 2年目で大きな違いがありました。 1年目はごくごく普通の対応でしたが、 2年目はトップへの表敬訪問では大きなテーブルからこぼれんばかりのお菓子でもてなしてくれ、各部署でいろいろお土産をくださいました。また、ドライバーつきでの観光やディナーなどと申し訳ないような接待ぶりだったのです。帰国して前年との違いの理由を考えたところ、どうも原油高で政府がうるおったのではないかという結論に達しました。小国で資源貧乏国の日本人はあくせく働くしかなく、資源国というのは本当にうらやましいと思いました。今回来日されたのは副大統領以下閣僚ということもありますが、シンガポールやマレーシアのような先進国家的なリッチさを感じさせ、インドネシアの経済環境の改善をうかがい知ることができました。
 もうひとつ、英語力です。カラ副大統領の講演はインドネシア語でしたので英語は不得手な方かと思いきや、聴講者からの質問には英語でどんどん答えておられ、閣僚にいたっては皆さんネイティブ並みの英語力です。もともとインドネシアはオランダ統治の歴史が長く、インドネシア語はアルファベット表記ですが、発音はオランダ語の影響を受けています。インドネシアの方の英語はどうしてもその癖が出ますが(ドイツ語を履修した方なら法則はわかります)来られた閣僚にいたってはまったくインドネシアなまりがありません。日本の閣僚がこれだけそろって英語で講演を行い、質疑応答にも答えられるかというとかなり厳しいものがあります。英語圏であるシンガポール、マレーシア、ブルネイ、フィリピンには無理としてもインドネシアにも負けるとは日本の国際化も前途多難のようです。
 インドネシアに関しては聴講者からの歯に衣着せぬ質問が多く、いつもハラハラドキドキと笑いに満ちているのが特徴です。今回も「本当に汚職はなくせるのか」(なくさないと立ち遅れますよ、という親心的ニュアンスのあるものでした。)や「最近中国と急接近し、日本を向いていないんじゃないかという声があるがどう思うか」という質問には副大統領が「中国製品は品質が良くなくても安い。わが国は貧しいから中国製品を買わざるを得ない。でも常に安さが優先するわけではなく、高いけれどベストの品質である日本製品を私たちは好きです。」と答えられ、会場から大きな拍手がわきおこりました。
 ある年配の男性が「私はスマラン(ジャワ島中部)の生まれです。ジャワの農業を忘れちゃだめだ。豊かな土地です。オランダにずっと支配され、華僑に絞り取られ、インドネシア人は何をしてきたのか。工業化だけでなく原点に帰って考えたほうがいい。」というような意見を述べられました。経済担当調整大臣は苦笑されて「プログラムを組んだのは私です。農業を取り上げず申し訳ありませんでした。」と答えられました。スマートなインドネシア閣僚とジャワの心を持った日本人。この対比がおもしろくもありましたが、 2国間の友好の歴史と素直に物を言える相手を持つ心地良さも同時に感じました。
河口容子

[171]なぜか出て来た一夫多妻制の話題

 経済成長著しいロシアでは一夫多妻がふえているとのニュースを見ました。地方に妻子を残し都会に出て来て一旗上げた男性が都会で新しい妻とその子どもたちと住んでいるケースが増えているのだそうです。1970年のビットリオ・デ・シーカ監督ソフィア・ローレン主演の映画「ひまわり」を何となく思い出しました。ロシア戦線から帰って来ない夫を探しあてた末に妻が見たのは夫と新しい家庭であったというストーリーです。
 ロシアのように勝ち組と負け組が明確になると、日本でも結婚したくても経済的に余裕のない男性と地位もお金もある男性に女性が群がるという事実上の一夫多妻制社会になるのではという議論も出て来ました。事実、バブル以降、シングルマザーは増え続けているのだそうです。バブル時代の大きな社会的変化として男女雇用機会均等法があります。世間の目の変化もあるでしょうが、女性が経済力を持つことにより、シングルマザーを可能にしたとも言えます。たとえば、総合職の女性の場合、出産と育児のために退職し、中年から再就職するとしても経済的な損失は約1億円という記事を読んだことがあります。1億円のみならず、夫がリストラに遭うリスクや、自分が再就職できないかも知れないリスクまで考えるとおいそれとは結婚はできない、でも子どもはほしいという女性はかなりいます。経済的な理由で子どもを持てない人もいれば、異なる理由で子どもを持てない人もいる、いろいろな角度から少子化対策は必要なのではないでしょうか。
 現在の一夫一婦制は、キリスト教の教義から来ているもので、キリスト教社会がグローバル・スタンダードになって以来、一夫一婦制が近代化の象徴のようになったような気がします。日本も源氏物語にあるように平安貴族は一夫多妻制であったし、現在でもお金持ちの男性が正妻のほかに「お妾さん」「愛人」を別宅に囲っているのは珍しい話ではありません。女系天皇を認めるかどうかの議論で「男系天皇は側室制度により維持された」「今更側室制度の復活は国民に支持されないだろう」などという意見まで飛び出す始末でなぜか堂々と一夫多妻制に話題は向いているような気がします。
 一方、チェチェン共和国では男性人口が極端に少ないことから、イスラム教徒が多い地域だけあって一夫多妻制の復活を唱える人も出てきたということです。イスラム教の一夫多妻制はもともと女性が外で働けないため、寡婦などの救済策としてあるという話を聞いたことがあります。ところが、アセアンのイスラム教国は、女性のほうが働き者です。それでも一夫多妻制は可能です。夫が第二夫人をもらう場合は第一夫人の許可が必要です。それを「嫌」と言ったばかりに第一夫人が離婚されたという話を聞いたことがあります。要は第一夫人になる人はある程度度量が大きくなくては務まらず、一見男性優位に思える一夫多妻制も夫が複数の女性にハラハラ気を遣って暮らさなければならないだけではないでしょうか。イスラム社会の人口増加により、この一夫多妻制の話題が出やすくなってきたようにも思えますが、国際的には一夫多妻制があるなら、一妻多夫制もなければ平等ではないという論議もあります。
 日本のある実業家は愛人数人を各事業部門の長に据えていると聞きました。接待などには社長と愛人全員が顔を揃えるそうですから、イスラム世界顔負けのその光景を一度見てみたいものです。ご本人たちはどう思っているかわかりませんが、競い合うことでおたがいの能力が磨け、会社の業績も伸びるわけで、案外、仕事面では安定した仲間なのかも知れません。
河口容子