[171]なぜか出て来た一夫多妻制の話題

 経済成長著しいロシアでは一夫多妻がふえているとのニュースを見ました。地方に妻子を残し都会に出て来て一旗上げた男性が都会で新しい妻とその子どもたちと住んでいるケースが増えているのだそうです。1970年のビットリオ・デ・シーカ監督ソフィア・ローレン主演の映画「ひまわり」を何となく思い出しました。ロシア戦線から帰って来ない夫を探しあてた末に妻が見たのは夫と新しい家庭であったというストーリーです。
 ロシアのように勝ち組と負け組が明確になると、日本でも結婚したくても経済的に余裕のない男性と地位もお金もある男性に女性が群がるという事実上の一夫多妻制社会になるのではという議論も出て来ました。事実、バブル以降、シングルマザーは増え続けているのだそうです。バブル時代の大きな社会的変化として男女雇用機会均等法があります。世間の目の変化もあるでしょうが、女性が経済力を持つことにより、シングルマザーを可能にしたとも言えます。たとえば、総合職の女性の場合、出産と育児のために退職し、中年から再就職するとしても経済的な損失は約1億円という記事を読んだことがあります。1億円のみならず、夫がリストラに遭うリスクや、自分が再就職できないかも知れないリスクまで考えるとおいそれとは結婚はできない、でも子どもはほしいという女性はかなりいます。経済的な理由で子どもを持てない人もいれば、異なる理由で子どもを持てない人もいる、いろいろな角度から少子化対策は必要なのではないでしょうか。
 現在の一夫一婦制は、キリスト教の教義から来ているもので、キリスト教社会がグローバル・スタンダードになって以来、一夫一婦制が近代化の象徴のようになったような気がします。日本も源氏物語にあるように平安貴族は一夫多妻制であったし、現在でもお金持ちの男性が正妻のほかに「お妾さん」「愛人」を別宅に囲っているのは珍しい話ではありません。女系天皇を認めるかどうかの議論で「男系天皇は側室制度により維持された」「今更側室制度の復活は国民に支持されないだろう」などという意見まで飛び出す始末でなぜか堂々と一夫多妻制に話題は向いているような気がします。
 一方、チェチェン共和国では男性人口が極端に少ないことから、イスラム教徒が多い地域だけあって一夫多妻制の復活を唱える人も出てきたということです。イスラム教の一夫多妻制はもともと女性が外で働けないため、寡婦などの救済策としてあるという話を聞いたことがあります。ところが、アセアンのイスラム教国は、女性のほうが働き者です。それでも一夫多妻制は可能です。夫が第二夫人をもらう場合は第一夫人の許可が必要です。それを「嫌」と言ったばかりに第一夫人が離婚されたという話を聞いたことがあります。要は第一夫人になる人はある程度度量が大きくなくては務まらず、一見男性優位に思える一夫多妻制も夫が複数の女性にハラハラ気を遣って暮らさなければならないだけではないでしょうか。イスラム社会の人口増加により、この一夫多妻制の話題が出やすくなってきたようにも思えますが、国際的には一夫多妻制があるなら、一妻多夫制もなければ平等ではないという論議もあります。
 日本のある実業家は愛人数人を各事業部門の長に据えていると聞きました。接待などには社長と愛人全員が顔を揃えるそうですから、イスラム世界顔負けのその光景を一度見てみたいものです。ご本人たちはどう思っているかわかりませんが、競い合うことでおたがいの能力が磨け、会社の業績も伸びるわけで、案外、仕事面では安定した仲間なのかも知れません。
河口容子