[364]アセアンのスイーツ

 アセアン諸国の食品展、今回はフルーツとスイーツに焦点を絞ったものへ行って来ました。私自身は食品の専門家ではないのですが、アセアンの方々の明るい笑顔が懐かしく、また日本では手に入りにくい食べ物を試食できるとあって、時間があれば必ず顔を出しています。
 中でも感動と笑いの渦に包まれたのは、カンボジアのドライフルーツとジャムの企業です。オーストラリアの中年女性が地雷事故の被害者のために興した会社で、スタッフに英語から生産、マーケティングまで教えています。またスタッフの独身女性や子どもに住居も提供しています。知的でやさしさにあふれたオーストラリア女性と始終笑顔を絶やさない工場長の若いカンボジア男性はまるで親子のような信頼関係に満ちていました。心のこもったハンドメイドのジャムやドライフルーツの数々は「赤毛のアン」の世界をほうふつとさせます。
 工場長いわく「カンボジアのしょうがは苦いです。日本のしょうがはピンク色で甘いのでびっくりしました。」どうやら紅しょうがを天然のものと勘違いしているらしく、あれは甘酢に漬けたピクルスのようなもの、と説明すると「ああ、それで初めて納得しました。」とちょっぴり残念そう。「加工したものと聞いてショックだったでしょう?」と私。「寿司屋に行けばあるわ。」と日本に 5年住んでいたオーストラリア女性。「日本のしょうがを漬けたらピンク色になったけど、カンボジアのしょうがはピンクにならなかったわ。」この企業のしょうが入りのジャムは日本人には珍しく、とてもさっぱりして美味でした。アセアン諸国ではしょうがを炒め物などにもよく入れますが、消化促進のためだそうで、カンボジアでは他の食べ物に比べると高いのだそうです。この企業ではしょうがを自家栽培しているそうです。
 不思議な出会いもありました。フィリピンのレガスピからピリナッツの企業が来ていて「私行ったことがあるんですよ。」と言うと「本当?いつですか?」と社長ご夫婦が身を乗り出しました。2007年 2月 8日号「続 マヨンの麓からの手紙~希望~」に出て来る Pさんの事を話すと「知ってるよ、僕の実家から5分の所だから。」とご主人。2002年にレガスピで Pさんに大変お世話になりましたが、今なおご縁が続いているような気がしました。
 圧巻はマレーシアとブルネイのレイヤーケーキ対決です。レイヤーケーキとは日本のバウムクーヘンのように切り口が断層のような縞に見えるものです。マレーシアのほうは女性の社長で小柄ながら体重80キロはあろうかと思う女性。パイナップル、苺などフレーバーごとに縞縞の色も変えてあり、着色料は使っていないそうですが南国らしいカラフルなものです。どんどん試食を勧める彼女に「全部食べたら太っちゃうわ。」と言うと「そうなの、聞いて。私スポーツウーマンでホッケーの選手だったの。この仕事を始めてからこんな体型になっちゃったわ。一緒に写真撮りましょう。」アセアンは女性が社長の企業が多いのですが、さすが男性客と一緒に写真を撮ろうとは言えず、いつも私は引っ張りだこになってしまいます。彼女たちは実に写真好きです。
 ブルネイのレイヤーケーキは人工着色料を使っていますが、レイヤーの中に花型だの渦巻きだのと色とりどりのデザインを施しています。王侯貴族、贅を尽くした王宮やモスクのイメージとぴったりの、アートのようなケーキでした。
 アセアンの香り、パンダンリーフの蒸しケーキもマレーシア企業にありました。パンダンとはタコノキで、葉はハーブとして整腸作用、解毒作用があると言われています。日本なら抹茶ケーキと思うような色です。アセアンでスチームド・ライス(蒸したごはん)を頼むとパンダンリーフで香りをつけたものが出て来る事がよくあり、私にはとても身近な香りです。
河口容子
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[363]時差のある暮らし

 国際ビジネスの世界に足を踏み入れるともう日本時間だけでは暮らせなくなくなります。常に時差を意識する、時にはいくつも重なった時間枠の中で人生を何倍も生きているような気になります。時差的には世界中のほとんどの国が日本より遅れているので相手に合わせれば残業をするのが当たり前になります。これがいずれも緊急事項の多い仕事となると 1日 2-3時間しか眠れない日々が続きます。「深夜まで起きていられない」「1日 8時間睡眠が必要だ」というタイプの方にはこういう仕事は辛くて続けられないでしょう。
 起業した際に中国や東南アジアを中心にしようと考えたのも時差対策からです。たとえば中国は 1時間、ベトナムなら 2時間の時差、この程度なら計算も簡単な上にちょっと夜更かしした、あるいは朝寝坊したレベルなので時差ボケにまではいたりません。また移動距離が近いと滞在も短くなる傾向にあるので心身ともにリズムが狂い出すまでには至らないような気がします。
 米国内は 3時間時差があります。これが案外不便で西海岸の朝 9時は東海岸の12時です。電話をしようと思っても相手が昼休みだったりします。反対に東海岸で朝一番外出前に西海岸に電話をしようと思っても会社はまだ始まっていない、というわけで、非効率かつイライラの素になります。私自身は子どもの頃から短時間しか眠らず、睡眠不足でもこたえない体質なので時差には比較的順応しやすいのですが、ニューヨークに 1週間いて14時間の時差にやっと慣れた頃にオレゴン州のポートランドへ行き、そこで 3時間の時差を味わった時にはさすがにまいりました。身体は夕方のつもり(そろそろ仕事が終わる感じ)なのにまだ太陽がさんさんと輝いているではありませんか。 1日をとんでもなく長く感じた記憶があります。
 ヨーロッパの 8時間の時差も結構くわせもので、つまり日本で会社が終わる頃あちらが始まるわけです。会社員の頃、出張先から東京の上司のスケジュールにあわせて電話をするのにアラームをセットして夜中に起きだして電話をした思い出があります。今フランスの案件をふたつかかえていますが、電話で打ち合わせをする時は、いついつの何時に電話をします、と事前に相手にメールで知らせあう事にしています。急用ならいざ知らず、それぞれの仕事のリズムにより都合の良い時間に話したほうが仕事もはかどるというものです。
 時差も慣れれば、逆利用して今これのメールを打っておけば明日朝には返事を読むことができる、相手時間に締め切り時間を合わせると時差分だけ猶予が生まれる、など何となく得をしたような気分になることもあります。
 国内にいても時差ボケの経験があります。睡眠時間が極端に短い期間がずっと続くと昼過ぎに眠くてたまらなくなります。起業してからも夜遅くまで仕事をする日が続くと居眠りをしてキーボードに頭をぶつけた事が何度もあります。さすがに最近は年齢も考えて徹夜はせず、夜 2-3時には寝て 7時に起きる「規則正しい生活」です。
 現在、羽田空港のハブ化構想が話題となっていますが、東京23区に住みながら羽田までは自宅から片道 1時間半、成田は 2時間です。外国人ビジネスマンは口ぐちに「都内での移動時間が長く、東京での仕事効率は悪い」と言います。この時間効率の悪さも国際化の遅れにつながっているような気がします。
河口容子
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