[134]反日運動対ローマ法王そしてヨン様

 前回、前々回と反日運動を違った視点で書いてみましたが、今回はさらに違った視点で見てみようと思います。まず、ゴールデンウィーク前の情報でしたが、連休中の香港旅行は約 3割がキャンセル、これにより香港の観光業が失う損失は 900万香港ドル(約12億円)。香港政府の観光局があわてて「香港は安全」とのアピールを日本語HPでやっていました。確かに平和的ではありましたが、香港で大規模な反日デモが行なわれたことは確かであり、親日的と言われる香港のイメージからは「香港よ、お前もか」という印象をぬぐえなくもありません。確かに香港人は日本へ旅行するのが好きだし、日本製品や文化も好きです。でも、日本人も好きかというと決してそうではない気がします。数十人香港人の知人友人がいますが、日本人に対する批判をよく聞かされます。平気で日本人の私に言えるということは親しさの裏返しと思うと、愛憎入り混じった感情を持っているのかも知れません。連休に入ってからのニュースでは中国本土への旅行は半分キャンセル、この 1月でビジネス客もかなり減っているようです。
 一方、大型連休組の旅行はヨーロッパ一周やイタリア旅行がブームと聞きます。名古屋港のイタリア村も大人気だそうです。もともとイタリアは海洋国で、歴史、芸術、グルメ、ファッションと日本人好みのツボをおさえた国です。カトリック関係者以外からはしばらく忘れ去られていたバチカンもローマの中にあります。旧法王の逝去から新法王の就任まで、連綿と続く伝統の重さ、芸術の深さにイタリアに行ってみたくなった人も多いのではないでしょうか。「勝ち組、負け組」といった新しい競争社会の中で、伝統への回帰が見られるのも興味深い現象です。
 せっかく韓流ブームで雪解けムードとなった日韓関係も韓国の反日運動でまた厳しい局面を迎えています。ところが、ヨン様の映画撮影シーンを見に何と2600人のファンがソウルに集結。 30-50代の女性がほとんどと聞きましたが、これには逆に韓国側が拍子抜け。「みんなで渡ればこわくない、恐るべし日本女性のパワー」いや、「危険をも忘れさせるヨン様の魅力」といったところでしょうか。
 反日運動を心理学的に考えてみると、自分に自信が持てないうちは他人に楯突くゆとりや勇気は持てませんので、韓国はもとより中国もそういうポジションに上がったと言えます。ただし、本当に幸福な人はそんなことはしないと思うので何らかのねたみ、恨みが渦巻いていると言えます。日本にとって本当に困るのは一生忘れられないほどの憎しみを抱かれること、ちょっと困るのは憂さ晴らしの標的に日本がなることです。
香港も含めた中国の反日デモは、中国でビジネスをする日本人にとっては切実な問題です。しかし、中長期化して投資を引き上げられれば、中国にとっては大マイナス、短期的な観光という視点だけでもマイナスです。デモは政府によって押さえ込まれていますが、これも続けば思想の自由もなくなります。もともと政治に関心の薄い日本人は危険を避けてヨーロッパ文化にひたり、ヨン様に黄色い声をあげました。この平和ボケ的反応もある意味ではたくましく、反日運動家をへこませるものがあります。
河口容子
【関連記事】
[132]反日運動と対中ビジネス
[133]反日デモはマレーシアに追い風となるか

[133]反日デモはマレーシアに追い風となるか

 中国各地の反日デモの一部暴徒化、続いてニューヨークやロンドン、ベトナムでも中国人による反日デモが起きましたが、おそらく彼女は「チャンス到来」と思ったことでしょう。彼女とはマレーシアの国際通商産業大臣のラフィダ・アジズさん、何と1980年以来ずっとマレーシアの閣僚で、1987年から現職にあり、マレーシアの経済発展を引っ張ってきたパワフルかつお茶目な女性です。(彼女については2003年 8月14日号「2010年流れは変るか」および同年 8月29日号「サインの効果」でも触れています。)
 中国が反日運動を押さえ込み、小泉首相がジャカルタで胡錦涛国家主席と首脳会談を行えるかどうか、という時、東京ではラフィダ大臣をミッション・リーダーとする一行が来日、恒例の「マレーシアビジネス機会セミナー」が開かれました。ここのところ、中国ブームで日本からのマレーシアへの投資が減っており、あるいはアセアン地域の工場を中国にシフトした日本企業もあります。そこへ今回のデモで、改めて中国一極集中のリスクが取り沙汰されるようになり、マレーシアの政治的な安定、治安の良さ、法体系も含めた産業インフラの良さ、英語でのコミュニケーションが可能という点をアピールして失地回復する絶好のチャンスとなったわけです。
 案の定、某ホテルの 450坪の宴会場が満杯になるほどの盛況ぶりでした。毎回感動するのは、集客、資料と実に丁寧に準備されていることです。マレーシア大使館のほか、マレーシア工業開発庁が東京と大阪、マレーシア貿易開発公社が東京にオフィスを持っているせいもあるでしょうが、日本の経済産業大臣の挨拶も含め、政府機関や銀行団も含め万全の組織でセミナーが企画されます。
 ラフィダ大臣はわかりやすい英語でお話をされますし、質疑応答はいつも一人で仕切ってしまうほどの博識と余裕ですが、また面白さも満点です。今回は茶系のロングスカートのスーツにぴかぴかの真っ赤なミュールをはいて登壇。「大臣は今日は素敵な靴を履いておられますが、マレーシア製ですか」との質問に、いきなりミュールを脱いで壇上にかざし「これはビニール製、革じゃないのよ、マレーシア製でたったの15ドル、欲しかったらマレーシアで買ってね。ちゃんと見ていてくれてありがとう。」いやはや、世界の女性の閣僚、高官でこんな風に自国産品を売り込めるのは彼女しかいないと思います。
セミナー後、個別の相談会が用意されています。実は私はあるプロジェクトをマレーシア向けに考えており、現地にパートナーになってくれる人を見つけたものの、なかなかうまく行かないものがありました。そこである政府機関名を指定して相談希望を事前に窓口のマレーシア工業開発庁に申し入れておきました。当初、その機関は来日予定はなかったのですが、知的でやさしそうな女性の CEOが来日して下さり、プロジェクトをサポートしていただけることになったばかりか、お土産物まで頂戴して申し訳ないような気分でした。ここに至るまで紆余曲折がありましたが、粘り、根回し、プレゼンテーション、何事も簡単にあきらめてはいけないと改めて感じました。
今回はたまたまセミナーで隣の席に中国系のマレーシア人が来られ、そのまた隣にパキスタンの方が来られ、名刺を交換したり、休憩時間に雑談をしたりと楽しく過ごすことができました。また、セミナー前にマレーシア大使館の公使を紹介していただきましたが、女性でシルクのロングスカートのスーツ姿でした。イスラム教の女性は脚を露出しませんので、民族服ではなく、こんなエレガントなスーツ姿をよく見かけます。いくつになってもミニスカートで走りまわっている私には羨ましい限りです。
 セミナーが終わった週末にマレーシアでも反日デモがあったとのニュースを耳にしましたが、マレーシアは多民族国家でミッション・メンバーもマレー人、中国人、インド人と多彩でした。民族の融合を活力に変えるような政策を取っています。日系企業は1,322社、在留邦人は1万人強で、人口2000数百万人のマレーシアにとって立派な活力の担い手です。
河口容子
【関連記事】
反日運動と対中ビジネス