[098]チームプレイ

 サッカーのアジアカップでの優勝は、激しいブーイング、異常な暑さ、遠距離移動、延長戦と悪条件をひとつひとつクリアしてきた結果だけに良い夏の思い出となりました。選手個々の良さを生かしながら、最終的にはチームプレイの勝利であったと思います。正直なところ、日本選手は強くは見えません。その代わり、団結心、粘り強さ、セットプレーでの精度などはすばらしいものがあります。また、マナーを欠く中国人サポーターの挑発にはのらず、日本人サポーターはブルーに PEACEの文字をプリントした Tシャツを着ている人や日中友好の垂れ幕を持っている人を見かけ、大人の国として誇りすら覚えました。
 ビジネスの世界もこれと同じで、やはり日本人の長所はマナーの良さやチームプレーの巧さにあると思います。ある時、私の香港人パートナーの兄のほうが言いました。「日本の組織はどうして放っておいてもちゃんと仕事ができるのだろう。」「日本の大企業では組織対組織の対立もあったり、決して仲よくやっているわけではないのですよ。」と私。「それでも結果として仕事はするでしょう?中国ではあり得ない。」確かに中国は米国と同様トップダウンの経営法ですし、中小企業の多い香港ではオーナーが何でも自分で仕切ります。もともと転職社会であり、会社に忠誠心がある優秀な中間管理職(現場の長)を得にくいということもあるのでしょう。
 おまけにパートナーの弟のほうは英国とシンガポールでも開業資格を持つ弁護士ですが、国際人を自負する彼ですら「日本は信頼関係の上にビジネスが成り立っている。すばらしいことだ。どうしてそうできるのだろう。」という有様です。中国人は基本的には個人主義できわめてドライです。香港人たちを見ていると利益になればすぐくっつき、利益にならなければ音沙汰もない。それで終わりではなく、利益になると知ればご無沙汰も詫びずどこからか現れるところがけっさくです。日本人のように「前回嫌な思いをしたから二度と会いたくない」などというセンチメンタルな発想は一切ありません。彼らにとってビジネスは勝つか負けるかのゲームのようなものかも知れません。

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[097]反日感情

 重慶でのサッカーアジア杯での日本代表やサポーターに対する中国の観客の言動は目に余るものがありました。日本国歌の演奏には起立しない、ブーイングを行なう、日本のサポーターにはペットボトルやごみを投げつけるという暴挙です。日本選手団のバスが中国の観衆に取り囲まれたり、日本のサポーターを帰りに安全のため一事避難させただの、日本戦については現地では実況中継しないなどという場外のニュースも連日飛び込んできました。

 知人の在日中国人 3世(彼は日本で生まれ育っていますが、日本人の血は一滴も入っていません。奥さんも上海人です。)に、「どこのチームを応援するかは勝手だけれども、あの態度はアンフェアでスポーツ精神に反する」と私は言いました。彼いわく「重慶は内陸部で沿岸部ほど国際化していない。中国全体に言えるけれども教育そのものが問題。中国人のマナーは悪いと思う。」と。

 追って中国共産党の青年向け機関紙に「観戦マナーを改めよ、ホスト国として恥。」という記事が出たものの、重慶は日中戦争時代に旧日本軍の爆撃を激しく受けた地だけあって反日感情の強い人が多いのでしょう。先週書いた日本人の感情的なるものとまた違い、これは心の奥底まで滲み込んだ恨みの教育がなされているような気がしてなりませんでした。

 かつて反日感情が非常に強いとされた韓国との関係にあっても、2年前のワールドカップの共催以来、雪解けムードとなり、現在では韓流ブームとさえなりました。ビジネスにおいては中国関連のニュースがあふれる一方で、重慶の5万5千人のスタジアムのほとんどが反日に揺れる光景を見てショックを受けた人も多いのではないかと思います。

 私の香港のビジネスパートナーは香港と中国の 4都市で日本製品のセレクトショップを展開していますが、屋号は日本的な名称を使っていません。日本的な屋号にすれば反感を持たれる危険性があるからです。日本や日本人は嫌いなのかも知れませんが、幸い日本製品の不買運動にまではつながりません。

 以前、広州に出張したとき、私が日本人とわかると如実に嫌な顔をされた事もありましたが、逆にとても親切にしてくれた人もいました。どこの国でもいろいろな人がいるものです。ひとり、広州から列車で香港へ出発する私にビジネスパートナーは「人民元を持っていないでしょう?持っていきなさい。」と札入れから数千円分の人民元をそっと渡してくれました。私は道中危険なことがあるのだな、と覚悟しました。インドネシアでは金銭決着用のお金をポケットに分散して持ち歩いているからです。私の危惧を察したビジネスパートナーは「何てことないよ。これで飲み物でも買えば、ってことだよ。」と笑いました。

 車中に日本人のビジネスマンがいました。荷物を半分通路にはみ出して置いているのを見るやいなや、女性の車掌は持っていた紙をはさむホルダーで思いっきりその荷物を叩きました。彼が日本人とわかっていたからです。疲れていたのかも知れませんが、そのビジネスマンはいかにも横柄そうな中年にさしかかった男性でした。その後、この車掌は乗客にミネラルウォーターの入った紙コップを配り、しばらくして回収に来ました。私は窓側に座っていたので取りにくかろうと彼女に手渡すと消え入りそうな声で「サンキュー」と言って受け取りました。決してマナーを知らないわけではない、接する側の態度や精神は必ず通じる、とこの光景を今でも忘れません。

河口容子