先日、繊維メーカーの営業担当者と話していたとき、日本のある縫製メーカーの話になりました。その工場には中国人女性の縫製工がたくさん働いているそうです。彼女たちは「研修」という名目で 2-3年の時限付きで日本にやって来ます。そして狭い部屋に何人かで生活をし、時には徹夜も、休日出勤もいとわず働き続けます。近所の農家から野菜をもらったりして食費も節約します。と、ここまで聞くと安い人件費で中国人女性を働かせている「女工哀史」のようですが、彼女たちの賃金は日本人とまったく同じです。日本にいる間せっせと貯金をし、故郷に帰り家を建て結婚する人もいれば、中国の工場で今度は縫製を教える立場として出世していく人もいます。日本企業としては技術をお金を払って教えているようなものです。どうしてこんな仕組みになってしまったか。日本人が働きに来ないからです。
以前、切花の輸入をしていたことがありました。海外の珍しい花ばかりを輸入していたわけではありません。菊やカーネーションといったごくごく普通に日本にありそうな花も大量に輸入されています。日本の園芸農家のほとんどは 50-70代です。このままでいくと、あと20年もすると日本産の切花はほとんどお目にかかれなくなってしまいます。
東京の製靴業の組合ともおつきあいがありますが、靴職人も50代は「若手」。労働力は中国人や韓国人によって支えられています。組合の掲示板にはパートも含めた求人の貼り紙がいつでもいっぱいです。靴は毎日履く必需品ですが、このままでは日本製の靴もいずれ絶滅してしまうに違いありません。
[059]中国へ押し寄せるライセンスビジネス
11月 4日から 6日にかけ、東京ビッグサイトで「ライセンス アジア2003」という国際的なライセンスビジネスショーが開かれました。最終日に「香港―中国市場新規参入への掛け橋」というタイトルのセミナーがあり、 1ケ月前に申しこんだところすでに満席となっていたのにはかなりショックでした。実は私と香港のビジネスパートナーは日本のあるキャラクターのライセンスビジネスを中国でスタートさせたばかりで、かなり先見性があると自負していたからです。もちろん、多くの方が関心を持ってくれれば市場は大きくなります。反面、競争も激化するということです。
現在、アジアのライセンス市場は100億米ドルで、そのうち日本がダントツの 1位で88億米ドルです。2位は桁が違う 6億米ドルとはいえ何と中国なのです。そして、これが2010年には16億米ドルの市場になると予想されます。
中国におけるライセンス・ビジネスは 76%がキャラクターで 20%が登録商標です。そして対象となる産業(製品)としては玩具およびゲームが 55%、アパレル 53%、文具 40%、子ども用品 39%となっています。チープな商品もあれば偽物もありますが、ライセンス・ビジネスといった知的所有権ビジネスも中国にはいつの間にか育っていることがわかります。
「中国は日本の何十年前と一緒」というような表現をされる方が結構いらっしゃいますが、それは違います。先月、私たちはある日本の工業団体とジョイントで中国の 4都市で消費者に対する聞き取り調査を行いました。もちろん日本とは経済格差があり、金額ベースでは比較になりませんが、可処分所得率は中国のほうが高いのではないかとさえ思えます。まず、若年層は一人っ子で、 6つポケット(両親と祖父母たち)を持っています。社会主義のお国柄でワーキングウーマンがほとんど、しかも男女の賃金格差はありません。ぜいたくさえしなければ食も住も安い。日本とは社会構造が違うことを見落としてはなりません。
私自身は会社員時代、米国の巨大スポーツブランドの他、米国のアウトドアアパレルブランド、イタリアのスポーツブランドの担当をしたことがあります。また、欧米のファッションや宝飾品ブランドの交渉経験も数多くあり、知的所有権ビジネスは自分の強みのひとつです。また、ビジネスパートナーは知的所有権を得意とする弁護士です。中国では外国の企業には規制されているメディア・ビジネス(出版、放送など)の権利も持っております。凝り性のパートナーたちは自らライセンサーとなり、おまけに自力で流通網まで作ってしまったので、管理体制も万全のはずですが、いかがなりますことやら。
キャラクターのライセンスビジネスは製造業と違い空洞化しません。管理さえ失敗しなければ、日本以外にどんどん市場を拡大することができます。また日本ではすたれたキャラクターも違う市場で甦れば、新たな収益を生んでくれるかも知れません。違う市場向けに仕様を変えたキャラクター商品が日本に逆輸入されて人気になる、ということもあるでしょう。アニメやキャラクターは今や日本のお家芸、中国でも日本の新しい顔として活躍してくれるに違いありません。
河口容子