世界に羽ばたく日本女性

 海外に居住する日本人、つまり3ケ月以上の長期滞在者と永住者の合計の男女比が半々になったのは平成10年です。以後女性の比率が増え続け、直近の外務省の統計では男性40万9千人教に対し、女性は42万9千人弱と約2万人女性が多くなりました。

 一昔前までは、海外に居住する日本人女性というと圧倒的に多いのが外交官や駐在員の帯同家族、そして留学生というイメージしかありませんでしたが、長引く不況により日本での就職に見切りをつけて海外に職場を求めている女性も増えてきたようです。また、語学留学といった学位の取得目的ではない留学も含めると女性の留学は大変多い気がします。海外就職組であろうと留学組であろうと何割かは現地で就職し、そのうちの大多数が現地の男性と結婚すると思われます。

 10数年前にデンマークへ出張した時、デンマークに永住する日本人数百人のうちほとんど全員がデンマーク人と結婚した日本女性と聞きました。現在、バリ島に住む日本人は約1000人でそのうち400人がインドネシア人と結婚した日本人女性という記事を読んだことがあります。いくら日本人が大挙して押し寄せるといったところで、リゾートの島にこんなに日本人が住みついてしまっていることも驚きですが、現地日本人社会はビジネスの利権をめぐって足の引っ張り合いも大変なものだとか。いずれにせよ、国際結婚した女性たちの子どもたちのほとんど全員は国籍としても人種的にも純粋の日本人ではなくなります。

 こうしてあたりを見回すと日本に居住している国際結婚カップルのうち、妻が日本人のケースが圧倒的に多い気がします。もともと女性の方が語学能力を含め環境適応力が高いことは実証済みですが、日本女性は外国人には大変人気があります。男性とまったく同じように仕事をし「大和なでしこ」とは思えない私ですらそうです。最近はアジアの国々も豊かになり、髪形や服装では日本人かどうか見分けがつきにくいものの「日本人」と言ったとたん、相手の対応が変わってきます。私自身、客観的に見て日本女性の良さは文化的な豊かさだと思います。学歴だけなら、アジアにはいくらでも優秀な女性はいます。ところが、日本には稽古事という伝統があり、成人になってからも教育を怠りません。趣味やスキルを身につけるのみならず文化的な豊かさや上手な人間関係を築く、向上心を持つといった面で人間的な魅力を増しているからだと思います。

 一方、高校生以上の子どもを持つ世帯で主婦が働いて家計を支える必要があると答えたのは半数以上という統計が新聞に出ていました。かつて「三食昼寝付」と言われた専業主婦もマイナーとなりつつあります。とはいえ、女性が産む性である限り、自分は男性と同等に仕事をし、専業主夫あるいはフリーターの夫でもいいという女性が急増することは考え難いことです。

 このまま放置すれば経済的な理由あるいは将来への不安から結婚したくてもできない日本男性はますます増え、日本女性はより広い選択肢を求めて世界へ羽ばたいていくことでしょう。2100年日本の人口は6700万人になるとも言われていますが、日本女性のいる日本であってほしいものです。

2002.08.30

河口容子

ショッピング天国ニッポン

 バブルの頃まで、香港旅行というと女性ならショッピングを思わせたものです。最近、韓国、台湾などアジアのお金持ちは日本へショッピングに来るらしいという情報を聞いて、確かにそれらしき言葉はデパートなどで耳にするものの、在日の方もいらっしゃるし、ショッピングにわざわざ日本に来た人か見分けがつきません。

 先月と今月、香港から女性の出張客があり、それぞれ約1週間滞在しましたので、彼女たちのショッピングぶりを観察することにしました。まず、先月はある小売店チェーンの購買担当者で責任者は30になるかならないか、ナンバー2は女子大生と言っても十分通用するほどです。職業柄、時間があれば小売店をのぞいてしまうので、そこで気にいったものがあると雑貨などついつい買ってしまい、とうとうスーツケースを1個調達するはめになりました。なんとホテルの近くのJRの駅前のショッピングセンターで中国製を1万円で買いました。彼女たちによると、中国製は香港でも当然買えるもののデザインがいいものはすべて輸出向けなので自分たちは買えない、とのことでした。お店の販1売員の方も「中国や香港の方がよく買われるんですよ。不思議ですけどね。」

 かつて80年代の前半にニューヨークでデパートめぐりをした時のこと、気に入ったデザインのカップがあり、底を見れば日本の有名ブランドであったり、当時一世を風靡した日本人デザイナーの輸出向け衣料は日本で売っているものとまったく違い格段に垢抜けており、日本人をなめているのかと思ったことを私は瞬時に思い出しました。世界の工場と化した中国でも、外貨稼ぎに良い商品は作られ、国民には商品が豊富に出回っていないことがうかがわれます。

 今月やって来たのはアパレルの縫製メーカーの副社長とマーチャンダイザーの女性。副社長と言っても9歳の男の子の母親です。同社では世界の有名ブランドをいくつも手がけていますが、ある米国ブランドなど3年間サンプルを提示し続け、やっと受注したのがたったの1500枚。それでも今は米国市場向けにメキシコに工場を建てるほどの辣腕です。ファミリー向けのカジュアル・ブランドに行けば、1店舗毎に10点近く、ある日本人デザイナーブランドのお店では30分もしないうちにセーター、パンツ、バッグなど20万円買い、休みの日にはカリスマ美容室に行ってみたいとのこと。一方、岐阜の卸問屋で1着500円のパジャマを10着近くも買って来たりと、彼女いわく「日本は高いブランドもたくさんそろっているし、安いものも選択肢が豊富。」と大のご満悦でしたが、増えすぎた荷物にちょっぴり不安げでもありました。

 正直なところ、モノにあふれた日本に住んでいる私には毎日一緒に歩きまわってもわざわざ買いたいものはほとんどありませんでした。旅先での非日常感も手伝うのでしょうが、彼らにはまだモノがない、というのが私の感想です。

 それにしても、香港、中国、東南アジアと女性の社会進出、それも責任ある立場に女性がずらりと並ぶ昨今、接待は飲食ではなく、お買い物のお付き合いになりそうです。一緒にやって来た香港の貿易会社の社長(男性)は自分も買い物を楽しみながら荷物も持ってあげ、試着の批評と実に手馴れたものでした。日本人男性には今後お買い物接待術の研修が必要かも知れません。

2002.08.22

河口容子