スカートをはいた上司

 「スカートをはいた上司がやって来る」雇用機会均等法が施行された頃、一般週刊誌に2週にわたり掲載された女性ライターによる記事で、私や同僚も取材されました。この週刊誌の読者の太宗は男性サラリーマンだと思いますが、「総合職としてごくごく一部の女性が職場に現れることがあっても管理職にはなれないだろう、まさか自分の上司が女性だなんて想像もつかない。」と冗談半分の記事として読んでいた記憶がします。

 田中外相の就任以来、バッシングも含めて報道の過熱ぶりは、私自身が総合職になった頃のことを思い出します。外相の指輪騒動もそうですが、なぜか「女性的」な事柄にかこつけて標的にされることが多く、メイク、髪型、服装に至るまでご意見、どころかお説教やお節介をいただくことが多かった印象があります。

 私のいた総合商社は典型的な男性社会です。女性の総合職は「見せしめ」のために異動が多く、異動予定先の上司に嫌がらせをされて異動できず退職した同僚もありました。会議や会合に知らないうちに女性の総合職だけがはずされていたりします。男性総合職なら新入社員にもアシスタントの女性がつくのに、女性の総合職にはなかなかつけてもらえず自分で取引先にお茶を出しながら商談をし、伝票処理もすべて自分でやるという時代もありました。

 女性のキャリアはいらっしゃるにしても外務省もやはり男性社会の牙城、スカートをはいた上司、それもお嬢さん育ちの実務経験に乏しい女性がやって来て、官僚たちがどんなにプライドが傷ついているかは手に取るようにわかります。現在の外相と官僚のバトルのキー・ワードのひとつに私は「公私混同」をあげます。男性の場合は社会に慣れすぎていて、職位に伴う権限を個人の権限と勘違いするきらいがあり、これは今回の一連の外務省の不祥事となって顕れています。逆に女性の場合の公私混同は、社会での教育や経験の不足から、個人の意見と組織の見解を上手に使い分けられないところにあります。ただでさえ、女性は組織を使うのが下手と思われがちで、そこは意識してでも個人の意見を複数の意見に変換させながら仕事をしていく努力と忍耐が必要でしょう。

 また、女性の上司や総合職は「女性ならでは」の強みも期待されます。今回の田中外相のパキスタン訪問で見せた涙や現地の子供たちに対する優しい対応、現地の女性と同じような衣装は男性の大臣にはまねのできない形で日本に対する好印象を与えることができたと思います。また、最近パート・タイマーから一躍役員や管理職に昇進する女性もちらほら報道されていますが、彼女たちも女性ならではの勤勉さ、粘り強さ、細かい配慮、今までの枠にとらわれない発想などが評価されたものだと思います。

 考えて見れば、男性中心の終身雇用、年功序列という制度の崩壊とともに、今までその恩恵を女性を受けられなかった分、いろいろなワーキングスタイルを確立しています。そして女性の場合は早くから実力社会であったと思います。その実力というのも所属している団体の大きさや有名度、あるいは肩書きではなく、真の実力で、これをお互いに見抜く能力も女性は持っています。不透明な時代、元気な女性が目立つのもこんな所にあるのかも知れません。

2001.12.05

河口容子

納税者としての意識

この頃になると法人向けに税務署が年末調整の説明会を開催してくれます。会場の入口では提出に必要な用紙類をもらえるのですが、昨年初めて行った時は自分が何と何を出さねばならないのかもわからずおろおろしていたのを思い出しました。年末調整の計算もしっかり間違え、税務署が還付してくれるまで間違いに気づかないほどでした。昨年起業してみて、痛感したのはいかにサラリーマンが税に無知であったかです。

サラリーマンは所得税などの計算をする担当でない限り、あるいは確定申告の必要な人でない限り、税というものは給与明細に書かれている数字、あるいは給与から勝手に引かれる嫌なものというイメージしかないと思います。そしてガラス張りゆえに必要経費の認められる事業所得者と比べて不公平だという声が常にあります。

私の参加した説明会によれば平成11年の給与所得者は5200万人、そのうち通年働いた人4500万人の平均年収は461万円とのことです。そして国税の32%が源泉徴収によって得られているとのことでした。本来個人が納税すべきものを企業が代わりに事務処理を行い、納税するというしくみを考えた人は本当に偉い。なぜなら、たとえば5200万人がそれぞれ確定申告をしたら、脱税する人、制度がよく理解できない人、間違いなどその管理だけでもおそろしいほどの税務署員が必要でしょう。

また、納税者側も事務手続き、納税の手間が省けます。その代行をしている企業側は従業員数が増えれば増えるほど専任者や管理システムが必要となってきます。そこまでしなくてはならない企業側のメリットとしては、当月分の源泉徴収税は翌月10日までに支払えばいいので給与支払日から納税日までは資金繰りに役立つわけです。特に給与の支払いを受ける人が10人未満の場合は税務署に申請すれば半年に1回の納税で済みます。

この所得税の他に、住民税、そして家計簿をつけている家庭ならだいたいの消費税の支払額も算出できます。全部足すとどのくらいの金額になるでしょう。たぶん、普通の家庭なら使い道に無関心でいられる金額ではないはずです。生きること、働くことイコール納税という感じです。ところが現在の徴税システムはあまりにもさりげなく税を払ってしまうよう工夫されているため、納税者の意識が薄くなるという欠点もあります。

不況で賃金カット、あるいは失業者がふえればふえるほど、税収は減っていきます。企業も赤字のところがふえれば法人税収も減るわけです。税制をこのままにすれば国民が受けるサービスは悪くなるばかり、そうでなければ税負担はあらゆる形で重くなる一方、どちらにしても明るい未来は想像できません。

以前、「公務員はサービス業」というタイトルで書かせていただきましたが、国民から税を徴収する以上、どんなサービスを求めているのかマーケティングを行うべきです。時代の変化とともに必要とされるサービスの種類や質も変わるべきです。納税者の無関心は税の無駄使いを助長します。さあ、年末調整の数字からじっくり見てみてください。

2001.11.29

河口容子