かつて「都会のOLの南北問題」という言葉を聞いたことがあります。親元から通勤してくるため給料がまるまる小遣いとして使えるOLと衣食住をすべて自分でまかなわなければいけないOLとの貧富の差を南北問題にたとえて呼んだものです。私が会社員になった頃、大企業の女子社員は親元から通勤できるのが採用の原則でしたが、同じ親元から通勤していても、社会勉強、結婚までの腰かけのOLと家族にとって働き手になっているOLとではライフスタイルに格段の差がありました。
私の周囲にはブランドもの、海外旅行、はてはお稽古事の月謝まで親に払ってもらい、毎日弁当まで作ってもらう「大きなぜいたくな子供」が結構勤務していましたが、結婚するまでの気ままと自他ともに許していた気がします。ところが、少子化により親も手放すのはさびしい、子供の側も親の家から通えば衣食住の最低限の保証はあるばかりか、適当に仕事をしていれば収入はあるし大義名分もたつという絶妙のバランスが成り立ちます。下手に結婚するよりは快適な生活が送れるため晩婚化が進み、そのうち親が退職したり、片親になってしまうと非婚率も上昇するという按配です。当然、女性のみならず、男性にまでこの波は押し寄せ「パラサイト・シングル」族が出現ていると思います。
最近よく聞く話は、パラサイト・シングルしていた子供が、結婚して出て行ったきょうだいの逆襲にあい追い出されるというパターンです。終身雇用制の崩壊した今では扶養家族を養い、住宅ローンを払うというリスキーな事はできません。そこで家族を連れて親の元に帰り、家だけ建て替えて一緒に住むという方法です。子供夫婦が働いてローンは返すというので承諾した親は孫の保育園の送り迎えから大家族となった食事のしたくと休む暇もなくなるというケースもあります。
また、親の年金や資産を目当てに同居し、自分たち夫婦や子供が使い果たすと今度は配偶者の親の所に転がりこむというケースやなんと80歳台の母親が60歳にもなろうとする息子の女性問題解決の資金を出してあげた、などなどパラサイトする層はどんどん拡がっているような気がします。
昔は、成人すれば親を養うのが当たり前とされていたのに、いつの間にか老後は自己責任と福祉行政でという考えに変わりつつあります。これも高齢化社会の悲しい図式といえましょう。親から見ても子供は昔は労働力だったのが、いつまでたってもお金のかかるものとなり少子化はますます進みます。
パラサイトできる親を持つ者とそうでない者に格差が生じ、またパラサイトさせられる親には目的は何であれ子供が寄ってきて一応大事にされ、そうでない親は放置されたり子供に邪険にされるという格差も生じます。こんな世の中になってしまうと、上手にパラサイトできる人間は豊かで賢く、独立心がありこつこつ自分で努力するタイプや貧しくても親孝行な人は要領の悪い人間に見えてきたりもします。
パラサイトな人生は不況や大失業時代を難なく乗り越えます。ただし、「いつまでもあると思うな親と金。」
2001.11.08
河口容子