日傘をさす女

 「日傘をさす女」印象派画家モネの有名な作品です。きらめく日の光、白い雲、緑をわたる風の匂いまでしそうな背景に日傘をさした白いドレスの婦人。ゆるやかな時間の流れと日傘は少女ではない大人の女性を感じさせます。

 ずいぶん昔になりますが、赤坂のうだるような暑さの中、よく行く小料理屋の女将さんとばったり出会いました。紗の和服がすずやかで、やさしい笑みで挨拶をしてくれ、控えめにレースのついた日傘をさして立ち去って行くその後ろ姿は絵のようで、私もあんな素敵な中年女性になれたらと思ったものです。

思えば数年前までは「日傘」イコール年配の女性の持ち物というイメージでした。ところが最近は若い女性の間で大ブレイクしています。ひとつは猛暑、オゾンホールによる有害紫外線の増加対策ということもあるでしょう。もうひとつはファッションの傾向がカジュアルな中にもフェミニンな路線を見出そうとしている気がしてなりません。Tシャツとジーンズにスニーカーでは日傘は似合わないはずです。

 日傘は麻や綿を用い、しかもレースのついたものなど張り地の素材が高いため雨傘よりは高額です。雨傘は必需品ですが、日傘はなくてもがまんはできます。必需品でないものに凝る、これも女性のおしゃれ心をくすぐるものがあるのでしょう。UVカット加工、晴雨兼用はもちろんデザイナー・ブランドから中国製の合繊繊維の手軽なものまであっという間に品揃えが広がるのも日本ならではと感心します。

先日、オフィス・ユニフォームに日傘をさして颯爽とお弁当を買いに行くOLの姿を街で見かけました。通勤にも日傘をさす若い女性がふえています。東京では会社員はほとんど電車通勤です。オフィスが駅と連結していたり、駅前に住んでいない限り、外を歩かざるを得ません。日傘をさす女の光景はクルマ社会の地方にはもう見られないものかも知れません。また、昔の働く女性がなぜか女性的な物を排除しようとしていた(あるいは会社側から排除させられていた)のと違い、いかにも女性らしさを誇示しているかのような日傘姿に能力も女性らしさも同時にアピールできる時代の変遷を感じました。

 一方、「元祖日傘をさす女」の中高年女性たちはなぜか帽子族がふえ、デパートの帽子売り場もその年代の女性客でにぎわっています。白髪やボリュームの少なくなった髪を隠すのにちょうど良い、日傘は荷物になる、という理由もあるようです。この年齢層にパンツルック、コンフォート・シューズというスポーティなファッションが流行っていることを考えるとバランス上うなずける気がします。

 いずれにせよ、日傘や帽子というアクセサリーは人により単なる実用品にしか見えなかったり、完成したおしゃれの決め手になったりします。日傘や帽子が絵になる女性になりたいものです。かつて「都市の美しさは女性の美しさ」という有名な広告コピーがありましたが、帽子や日傘が彩りをそえる世界の大都市というのも他にはないような気がします。たかが日傘、されど日傘、環境問題からファッション、女性の時代といろいろな事を考えさせてくれます。

2001.08.02

河口容子

公務員はサービス業

ある外資系企業では管理・総務部門を「サービス部門」と呼んでいます。社員が快適に仕事ができるようなサービスを提供することによってスタッフは報酬を得るという前向で合理的なマインドに妙に感動したことがあります。一方、日本企業ではそういう部門は評論家気取りであったり、雑役係のように卑屈であったりして営業部門と対立していることが多いようです。

 約3年ほど前にある財団の定期刊行物で行政改革の特集号があり、意見を求められたことがあります。思ったことを話しただけなのにその刊行物始まって以来くらいの感想文が寄せられたと聞き自分もびっくりした思い出があります。

 その中で公務員としての評価は難しい試験に合格したからではなく、公務員としての資質、つまり「人々のために公平なサービスを提供できるか」「問題点の発掘と改善能力があるか」を重視すべきと言いました。そして、公務員は権力をもっているからではなく、国民にサービスをする人だから尊敬される時代が来てほしいとも言いました。

 これは公務員および納税者側のマインドの問題です。私もサラリーマン時代は税は給与明細上の数字でしかありませんでしたが、起業していろいろ勉強するようになりました。税理士にはお願いしていません。費用がもったいないのと納税者である以上、税務署がきちんと教えてくれるべきだという思想を持っているからです。幸い、所轄の税務署はいつも大変親切で、決算後の法人税の申告書類を作成するのに半日も指導してくれました。

 伏魔殿こと外務省から出てくる不祥事の多さ、これは良くも悪くも田中外相のおかげだと思っていますが、思いおこせばこれだけ海外旅行者がふえても在外公館のお世話になった人がどのくらいいるでしょうか。海外出張ではいろいろな所へ行きましたが、何かあったら最後は自力で脱出するか現地人の友人に助けてもらうことしか考えたことはありません。そんな思いで仕事をしている人たちから徴収した税金で酒池肉林におぼれているとは何とばちあたりなことでしょう。

 よく若い人たちにその人の組織の中での存在意義、ポジショニングといいましょうか、あるべきスタンスをアドバイスすることがあります。これをはっきりさせると仕事のやり方やコミュニケーションの仕方まで見違えるほど良くなることがあります。公務員もそうすれば、警察官の痴漢や消防士の放火などというパロディのような事件はおこるはずもありません。

 もちろん民間企業でも不祥事は多々あります。ただ、露呈すると本人のみならず、企業そのものまで淘汰されてしまいます。もはや大目に見てくれるほど経済的な余裕がないし、競争や企業倫理も地球規模になっているからです。

 公務員イコールサービス業と考えれば、納税者にいかに負担をかけずに快適に暮らしてもらう、あるいはこんなサービスがあれば税金を大目に払っても良いというようなアイデアがどんどん生まれてくるはずです。サービスが評価されないと役所や公務員も生き残れない、そんな国家には活力があると思います。

2001.07.26

河口容子